仕事を奪うAIと、予想外の仕事を創り出すAI
HOW AI CREATES JOBS
今の私たちは何でもオンラインで済ませようとするから、そうした行為の全てが記録され、保存され、AIの学習材料となっている。人や車、屋外のさまざまな場所に設置したセンサーを利用する「モノのインターネット(IoT)」も誕生した。そうしたデータを解析してAIに供給するには膨大な計算処理能力が必要だが、それもクラウド・コンピューティングを使えば誰でも簡単に手に入れられる。
こうしたことから、AIがどんな仕事もこなせる段階に到達するのは時間の問題と考えられる。そしてこの認識が、猛烈なパニックの連鎖を引き起こしている。オックスフォード大学の研究によれば、人間が行っているあらゆる作業の約半分は機械で代替できる。一部には、総労働人口の90%が失業するとの予測もある。
生み出される新しい職業は
2016年9月、人々の不安をなだめ、政府からの介入を未然に防ぐために、AI企業大手数社は「AIに関するパートナーシップ」を結成した。「われわれはAIが世界を肯定的に変える可能性を強く信じている」と、グーグルのムスタファ・スレイマンは語った。
一方、「心配なのは、ロボットが人間の仕事を奪い、人間を失業させることではない」と、米大統領経済諮問委員会のジェーソン・ファーマン前委員長は語っている。問題は、AIが人間の仕事を奪うスピードが速いと、「多くの人が失業する期間が長引きかねないということだ」。
それでも、悲観し過ぎるのは禁物だ。例えばライアン・ディタートが立ち上げたインフルエンシャルという会社は、IBMのワトソンをベースにしたAIシステムを構築した。このシステムはソーシャルメディアを精査して、多数のフォロワーがいる「インフルエンサー(影響力のある人)」を見つけ出し、それぞれのネット上のパーソナリティーを分析している。
特定のブランドがターゲットとする消費者の特性に合致するインフルエンサーを発掘し、そうした人とブランドを結び付けるためだ。ブランド側はインフルエンサーに報酬を払い、自社製品を宣伝してもらう。つまり、インフルエンシャルのような企業が成功すれば、一方でブランド・インフルエンサーという全く新しい職種が誕生するわけだ。
来るべきAI経済は、インターネットが予想外の仕事を生み出したように、現時点では想像もできない仕事をいくつも発明するだろう。30年前には「検索エンジン最適化の専門家」などという職業は存在しなかったが、今ではかなり実入りのいい仕事だ。
AIに限らず、産業の機械化・自動化で人間の職が奪われることは過去にもあった。セルフ給油の普及で多くのガソリンスタンドから店員の姿が消えた。だがそれは社会全体の生産性を向上させ、別な価値を生み出す別な職業を生む要因にもなった。