円高になると株安になるのはなぜ? 為替と株価の奇妙な関係
円高で日本株が売られる理由
さて、円高になると、日本企業は下記のような2つの心配事をします。
1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)
2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)
1.海外で自社製品が売れなくなってしまう(シェア低下)
円高によって、あらゆる製品やサービスが海外で売れなくなってしまいます。たとえば、こんな状況が起こることが考えられます。
アメリカ在住のある少年は、近所のおもちゃ屋で公式ポケモンカードを1枚1ドルで買うのが楽しみでした。ところがある日、同じカードが1枚2ドルになっていました。少年は帰宅し、父親に懇願します。父親は翌日、子供だましの不当な値上げだとクレームに行きましたが、おもちゃ屋は「円高(ドル安)で卸売価格が2倍になったのだ」と説明します。父親は仕方なく店を出ると、路地裏の小さな露店で非公式のポケモンカードを購入し、息子に渡しました。
この短い作り話には、円高が日本企業にもたらす様々なマイナス要素が含まれています。
商品が売れなくなるだけでなく、値上げによる業界への不信感と顧客離れ、粗悪な偽造(コピー)品の普及と、さらには同業種間のシェア低下も懸念されるのです。特に販売シェアの低下は国際競争力を失うことと同じであり、企業の成長戦略に大きく影響してくる可能性もあります。
2.海外売上のドルを円に両替したら雀の涙だ(為替差損)
海外で事業を展開する日本企業は、決済にドルを使っています。そのため現地の売掛金だけでなく、日頃からある程度のドルを保有していることも多くあります。円高が大きく進行すると、それらのドル資産を円に換金したときに"雀の涙"ほどに目減りしてしまうのです。
1ドル=100円のときに1億ドルの売上があったとしましょう。この時点で円に換金すれば100億円です。しかし、急激に円高が進んで1ドル=50円になると、この売上は50億円になってしまいます。何もしていないのに、為替相場の変動だけで売上が半減してしまうのです。
このように、円高になると「シェア低下」「売上減少」「為替差損」といった懸念が生まれます。これらが、海外輸出を主な収益源としている企業の業績に対する不安材料になり、株式が売られることなるわけです。
なぜ日経平均が下落するのか?
円高が輸出に不利に働くことはわかりました。しかし裏を返せば、海外製品を円高の力で安く仕入れられるようにもなります。原材料が値下がりすれば製造コストを抑えることにもつながり、企業の業績アップに貢献すると期待できます。
つまり市場全体を見渡した場合、円高懸念によって株式が売られる輸出企業もあれば、円高を好感して買われる輸入企業もあるということです。それなのになぜ、円高になると日経平均株価が下がるのでしょうか? それは、日本の輸出企業と輸入企業のアンバランスに原因があります。
■日経平均株価の構成銘柄
日本の株式市場を代表する株価指数である「日経平均株価」は、実は、文字どおり全上場銘柄の株価を平均したものではありません。東証1部に上場している全銘柄(1990銘柄/2016年11月10日現在)から選出した225銘柄の平均株価です。
円高によって日経平均株価が下がるのは、この225銘柄に、ハイテク産業や自動車産業といった輸出企業の割合が多いからなのです。特に自動車産業は、企業数こそ業種別7位に甘んじていますが、いずれも企業規模が大きく、円高の影響を強く受けるため、これらの企業の株価の変動が日経平均株価を大きく動かすことになります。
業種別・日経平均株価採用銘柄数(2016年11月10日現在)
1.電気機器(29社)
2.化学(17社)
3.機械(16社)
4.非鉄金属製品(12社)
5.食品(11社)/銀行(11社)
7.自動車(10社)
株価の変動が指数に与える影響を「寄与度」と言いますが、日経平均は225銘柄の「平均」ですので、単純に株価が高いと寄与度も大きくなります。そうした株価の高い銘柄(値がさ株)が輸出企業に多いことも、円高が日経平均を押し下げる原因のひとつになっています。
こうして、為替の影響を強く受ける輸出企業の株価が、日経平均を大きく動かす結果になるのです。そのため、円高でこれらの銘柄が売られて日経平均が下がると、日本株全体が下落するかのようなイメージをもつ人もいるかもしれません。