最新記事
建築

サステナブル建築を先導する世界の最先端モデルとは

Going Ultra-Sustainable

2023年10月13日(金)19時50分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)
米ボストン大学コンピューティング・データサイエンス学部の新校舎

米ボストン大学コンピューティング・データサイエンス学部の新校舎。同大学は2040年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言している DAVID L. RYANーTHE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES

<CO2排出の40%は建築関連、技術を総動員して持続可能な街づくりを>

ノルウェー西岸の都市トロンハイム(人口約18万人)は、北極圏から約320キロの高緯度に位置する古都。長い冬には空はどんよりと曇り、太陽光など自然エネルギーの利用に理想的な条件がそろっているとは到底思えない。だが、この街に立つ延べ床面積約1万8600平方メートルの新築ビル「パワーハウス・ブラットルカイア」は年間50万キロワット時近い再生可能エネルギーを生み出している。この建物内で消費される電力はその半分にすぎず、余剰分は近隣に並ぶ建物に供給されるほか、電気自動車やバス、船舶の充電に利用されている。

ここ10年ほど、アメリカをはじめ世界各地に「サステナブル建築」が誕生し始めた。サステナブル(持続可能な)建築とは設計、施工、運用を通じて環境負荷をできる限り抑えた、持続可能な生活スタイルに寄与する建物のことだ。

だが今、技術の進歩に景気回復が重なり、大型ビル開発はさらにその先を行く「超サステナブル建築」の時代に突入しつつある。気候変動の影響が明らかになり各国政府が規制強化に乗り出したことも、この新潮流を後押ししている。トロンハイムのビルのような未来型の超サステナブル建築が目指すのは、10 年前には考えられなかったような野心的な目標だ。周囲の環境に及ぼすダメージを極力ゼロにするだけでなく、環境の再生に積極的に貢献しようというのである。それを可能にするのは、建物を取り巻く地域と都市全体のグリーン化を視野に入れた設計だ。

気候変動の進行を防ぐには二酸化炭素(CO2)の排出を大幅に減らさなければならないが、現状では各国の削減努力は十分とは言い難い。住宅やビルの施工段階でのCO2排出に冷暖房や照明など運用段階での排出も加えると、建築関連のCO2排出は世界の総排出量の約40%を占めるといわれている。気候変動を抑えるにはこの部門の大幅な排出削減が不可欠なのだ。

トロンハイムのビルは、ノルウェーの5つの建築業界組織が共同で開発した。計画ではCO2排出ゼロの建物にすることを目指し、そのために外壁の約290平方メートルのスペースを太陽光パネルで埋め尽くした。さらに沿岸部という地の利を生かし、海水をくみ上げて冷暖房に利用している。2019年に完成した「パワーハウス・ブラットルカイア」は、「エネルギー・ポジティブ」な建築、つまり消費量を上回る再生可能エネルギーを生み出す大型ビルのモデルとなっている。

パワーハウス・ブラットルカイア

パワーハウス・ブラットルカイアは地域のグリーン化の要 SNØHETTA

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、農産物値下げで「重大発表」へ コーヒー

ワールド

再送ウクライナのエネ相が辞任、司法相は職務停止 大

ワールド

再送ウクライナのエネ相が辞任、司法相は職務停止 大

ワールド

米アトランタ連銀総裁、任期満了で来年2月退任 初の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 3
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中