ビッグサンダーマウンテンで尿路結石が出る!? イグノーベル賞受賞の方法以外には乗馬やヨガなどの画期的治療法も
不思議な膀胱の仕組み
また、対象物の場所を確認した後にもう一度それに触れようとしても、どうしてもその位置がわからなくなってしまうのです。さらに、膀胱が満タンであるという感覚に乏しく、失禁を避けるために排尿を予定通り行うことや、排尿時に膀胱を完全に空にするということもできませんでした。⑧
そこで、パタプティアン博士の研究チームはPIEZO2が欠損したマウスを人工的に作り実験を行いました。普通のマウスの尿路には、PIEZO2が存在しており、それが組織の伸縮を検知し、膀胱が満タンになると神経を通じてサインを送り、排尿を促進させています。
しかし、PIEZO2が欠損していると膀胱が満たされていることを感知できなくなり、排尿時の筋肉制御にも異常が見られました。これらの実験から、マウスも人間も、正常な膀胱の感覚や、正常な排尿にはPIEZO2が必要であることがわかりました。
一方で、PIEZO2がないと全く排尿が行えないわけではないことから、別のメカノセンサータンパク質が排尿に関与している可能性が考えられます。足りない機能は他の機能で補い合うのかもしれません。
この研究が進めば高齢者の排尿障害なども治療できるようになる可能性がありますが、実は排尿のシステムがどのように機能しているかは未だ十分な研究が行われていません。普段何気なく行っている私たちの排尿ですが、意外と解明されていないことが多いのです。
出典
① National Aeronautics and Space Administration. Human Research Program: Human Health Countermeasures Element: Evidence Book: Risk of Renal Stone Formation. Houston, TX: Lyndon B. Johnson Space Center; 2008.
② Urinary stones, active component, U.S. Armed Forces, 2001-2010. Medical Surveillance Monthly Report. 2011; 18(12): 9-12.
③ Mitchell MA, Wartinger DD. Validation of a Functional Pyelocalyceal Renal Model for the Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster. J Am Osteopath Assoc. 2016; 116(10): 647-652.
④ Bailey MR. Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster. J Am Osteopath Assoc. 2017; 117(6): 349-350.
⑤ Marshall KL, et al. PIEZO2 in sensory neurons and urothelial cells coordinates urination. Nature. 2020; 588: 290-295.
⑥ Coste B, et al. Piezo1 and Piezo2 Are Essential Components of Distinct Mechanically Activated Cation Channels. Science. 2010; 330: 55-60.
⑦ Nonomura K, et al. Piezo2 senses airway stretch and mediates lung inflation-induced apnoea. Nature 2017; 541: 176-181
⑧ Chesler AT, et al. The Role of PIEZO2 in Human Mechanosensation. N Engl J Med. 2016; 375: 1355-1364.
中尾篤典(なかお・あつのり)
医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。
毛内 拡(もうない・ひろむ)
脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。
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