最新記事
ヘルス

ビッグサンダーマウンテンで尿路結石が出る!? イグノーベル賞受賞の方法以外には乗馬やヨガなどの画期的治療法も

2023年11月24日(金)16時20分
中尾篤典(医師)・毛内 拡(脳神経科学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

不思議な膀胱の仕組み

また、対象物の場所を確認した後にもう一度それに触れようとしても、どうしてもその位置がわからなくなってしまうのです。さらに、膀胱が満タンであるという感覚に乏しく、失禁を避けるために排尿を予定通り行うことや、排尿時に膀胱を完全に空にするということもできませんでした。⑧

中尾篤典・毛内拡『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』そこで、パタプティアン博士の研究チームはPIEZO2が欠損したマウスを人工的に作り実験を行いました。普通のマウスの尿路には、PIEZO2が存在しており、それが組織の伸縮を検知し、膀胱が満タンになると神経を通じてサインを送り、排尿を促進させています。

しかし、PIEZO2が欠損していると膀胱が満たされていることを感知できなくなり、排尿時の筋肉制御にも異常が見られました。これらの実験から、マウスも人間も、正常な膀胱の感覚や、正常な排尿にはPIEZO2が必要であることがわかりました。

一方で、PIEZO2がないと全く排尿が行えないわけではないことから、別のメカノセンサータンパク質が排尿に関与している可能性が考えられます。足りない機能は他の機能で補い合うのかもしれません。

この研究が進めば高齢者の排尿障害なども治療できるようになる可能性がありますが、実は排尿のシステムがどのように機能しているかは未だ十分な研究が行われていません。普段何気なく行っている私たちの排尿ですが、意外と解明されていないことが多いのです。


出典
① National Aeronautics and Space Administration. Human Research Program: Human Health Countermeasures Element: Evidence Book: Risk of Renal Stone Formation. Houston, TX: Lyndon B. Johnson Space Center; 2008.
Urinary stones, active component, U.S. Armed Forces, 2001-2010. Medical Surveillance Monthly Report. 2011; 18(12): 9-12.
③ Mitchell MA, Wartinger DD. Validation of a Functional Pyelocalyceal Renal Model for the Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster. J Am Osteopath Assoc. 2016; 116(10): 647-652.
④ Bailey MR. Evaluation of Renal Calculi Passage While Riding a Roller Coaster. J Am Osteopath Assoc. 2017; 117(6): 349-350.
⑤ Marshall KL, et al. PIEZO2 in sensory neurons and urothelial cells coordinates urination. Nature. 2020; 588: 290-295.
⑥ Coste B, et al. Piezo1 and Piezo2 Are Essential Components of Distinct Mechanically Activated Cation Channels. Science. 2010; 330: 55-60.
⑦ Nonomura K, et al. Piezo2 senses airway stretch and mediates lung inflation-induced apnoea. Nature 2017; 541: 176-181
⑧ Chesler AT, et al. The Role of PIEZO2 in Human Mechanosensation. N Engl J Med. 2016; 375: 1355-1364.

中尾篤典(なかお・あつのり)

医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

毛内 拡(もうない・ひろむ)

脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権

ビジネス

シタデル創業者グリフィン氏、少数株売却に前向き I

ワールド

米SEC委員長が来年1月に退任へ 功績評価の一方で

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦争を警告 米が緊張激化と非難
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中