最新記事
ヘルス

高齢者のスポーツは「早死+寝たきり」のリスクが高まる!? 医大名誉教授「運動不足以上に気をつけたいこと」

2023年10月7日(土)09時47分
高田明和(浜松医科大学名誉教授 医学博士) *PRESIDENT Onlineからの転載

運動不足以上に気をつけるべきリスク

こう書くと、ゴルフとかテニス、マラソンなど、あらゆるスポーツを生きがいとしている人たちから批判されるかもしれません。

楽しんでやっている分には構わないし、私はそういう方に対して「やめなさい」とまで言うつもりはありません。

しかし、高齢になっても続けている以上は、「それができなくなったとき」のことを想定しておいてほしいとは思います。

というのも、体力もあって積極的にスポーツを楽しんでいた方が、身体機能の衰えや足腰を痛めたことをきっかけに、思うように運動ができなくなり、孤独感を増してしまうケースがとても多いからです。

特にチームスポーツをやっていた人は、元気に運動を続けている仲間の姿と自分を比較して、チームに迷惑をかける心配も含め、まるで自分が脱落してしまったかのような疎外感を覚えてしまいがちです。そこから、うつになってしまう方が多くいます。

だから運動を楽しむのであれば、あまり「競い合うこと」や「チームプレー」に熱心にならないこと。

ゴルフのスコアも、マラソンのタイムも、一日に歩く歩数も、年を取ったら下がるのが当たり前なのです。ただ、その下がり具合を誰かと競い合っても意味がありません。

運動をしてはいけないというのではなく、人間の体は、高齢になっても若い時と同じようにハードな運動ができるようにはできていないことを知っておいてください。

運動不足で老いてしまうこと以上に、「無理な運動をしたせいで足腰を痛めて動けなくなり、それがきっかけで、あっという間に老いてしまうリスク」のほうを、心配するべきでしょう。

「生涯現役」という幻想も、孤独感を招く

年を取ってから執着してはいけないのは、運動の強度だけでなく、仕事や社会的な役割についても同じかもしれません。

もちろん、経済的な事情から「仕事をして収入を得なくてはいけない」人はいるでしょう。でも、そうではないのに、何歳になっても「仕事をするべきだ」ということはないですし、いつまでも現役でいる人が偉いわけでも、幸せなわけでもありません。

医学の分野にはいつまでも現役の人が多いのですが、早期に引退したからといって悪いわけではないし、仕事を辞めたって人生を大いに楽しんでいる人は大勢います。

世の中は、「高齢でも、仕事をしている人が素晴らしい」と、むやみやたらに崇め奉るのですが、そんな幻想に惑わされてはいけません。

すでに述べたように、私たちの肉体は70歳や80歳を超えたら、正常に使えるようにはできていません。したがって仕事年齢だって、本来は70歳以上を想定してはいないわけです。だから一般的には65歳くらいで定年になっています。

しかし、人生が長くなった結果、私たちは想定外の努力をしなければならなくなりました。

たとえばあるマンションで、高校の校長先生だった方が、管理人の仕事を引き受けていたとしましょう。そうやって仕事をしていることは賞賛されるべきことですし、管理人よりも校長先生のほうが偉いということもありません。時間に余裕があるし、本人が楽しんでやっているならば、何も問題はないことです。

しかし、もし、「なんで校長だった私が、この仕事をしなければいけないんだ」とか、「校長までやった人間に世の中は冷たい」などと感じるようであれば、そこからたちまち疎外感や孤独感が、広がっていきます。

それに、家でのんびりしている状態とくらべれば、やはり体に負担がかかるのは事実です。なんだかんだいって管理人さんの仕事は忙しいものですから、それなりに体をケアしながら、無理をせずに仕事をしていく必要があるでしょう。

というわけで、「老化を遅らせる練習」の4つめは、「生涯現役が理想! という幻想を捨てること」です。

自動車
DEFENDERの日本縦断旅がついに最終章! 本土最南端へ──歴史と絶景が織りなす5日間
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中