「夜中におしっこのため目が覚める」と死亡リスクが2倍に...... 専門医が指摘する寿命とトイレの意外な関係
夜間頻尿は健康寿命を左右する重要な問題だ
すると、当然のことながら、意欲や集中力が低下する、疲れが取れにくくなる、昼間に眠くなる、イライラしやすくなる、といったことが起こりやすくなります。仕事でミスをすること、自動車を運転しているときに集中できなかったり眠くなったりして、事故を起こしてしまうこともあるかもしれません。
体のさまざまなホルモンのバランスも、7時間眠ることで整うといわれています。つまり、夜間頻尿で睡眠不足に陥ると、ホルモンのバランスが乱れ、心身にさまざまな不調が表れるおそれがあります。
こうした心身の不調から、外出したり人に会ったりするのがおっくうになったり、うつ状態に陥ってしまったりする人もいるでしょう。70歳以上の人にとって夜間頻尿は、寿命を、そして健康寿命を左右する、非常に重要な問題なのです。
では、一体なぜ、夜間頻尿が死亡率の増加につながるのでしょうか?
まず考えられるのが、夜中にいきなり冷たい便座に座ることで、急激な温度変化に伴って血圧が変動し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などが引き起こされることです。排尿によって血管が拡張され、血圧が下がり、心臓から脳へ送られる血液の量が急激に減って、脳が酸素不足になってしまう「排尿失神」が起こることもあります。
原因は夜間多尿、膀胱蓄尿障害、睡眠障害の3つ
では、なぜ年齢を重ねると、夜間頻尿になってしまうのでしょうか?
その原因についてお話ししましょう。夜間頻尿の原因には、主に次の3つのタイプがあると考えられています。
①夜間多尿
②膀胱蓄尿障害
③睡眠障害
そして、糖尿病や高血圧、肥満、あるいは心疾患や腎疾患の治療薬の服用などが引き金となっているケースもありますが、多くの場合、ホルモンの減少、腎臓機能や膀胱機能の低下、筋力の低下、睡眠のリズムの乱れなど、加齢に伴う体の変化が、これら3つの原因を引き起こしています。
ホルモンバランスの乱れ、筋力の低下
ここからは、夜間頻尿の3つの原因について、もう少し詳しくご説明しましょう。まず、①の「夜間多尿」は、夜間に作られる尿量が多い状態のことです。
通常、人間の一日の尿量は約1000~2000mL、一回の排尿量は約200~400mLであり、排尿回数は、日中は5~7回程度、夜間(就寝中)は0~1回程度です。
しかし、睡眠前に水分を過剰摂取したり、心疾患や腎疾患の患者さんが、睡眠前に利尿薬を服用したり、加齢により、尿量を調節する抗利尿ホルモンの分泌バランスが乱れたりすると、夜間の尿量が増えてしまうのです。
加齢による筋力や血管の収縮力の低下も、夜間多尿の原因となります。筋力や血管の収縮力が低下すると、血液の循環が悪くなり、下半身に水分がたまります。その状態のまま横になると、下半身にたまっていた水分が上半身に移動し、心臓に負担がかかります。
すると体は、排尿を促す「利尿ペプチド」というホルモンを分泌し、余計な水分を体の外に出そうとするのです。
なお、一日(24時間)に作られる尿量のうち、夜間(就寝中)に作られる量が、65歳以上の場合は3分の1(33%)以上、若年者では5分の1(20%)を超える場合、夜間多尿であるとされています。