最新記事
ヘルス

睡眠6時間が2週間続くと集中力は酩酊状態以下!? 自覚のない睡眠不足による深刻なダメージ

2023年4月24日(月)16時45分
木田哲生(堺市教育委員会 主任指導主事) *PRESIDENT Onlineからの転載
電車の優先席で居眠りをする高校生たち

睡眠不足のほかにも問題のある電車内での居眠り TAGSTOCK1 - iStockphoto


あなたは睡眠不足かもしれない。堺市教育委員会指導主事で「みんいく」と呼ばれる睡眠教育に取り組んでいる木田哲生さんは「ペンシルベニア大学の研究によると、6時間睡眠を2週間続けると2日間徹夜したのと同じレベルまで集中力が下がるという。しかし、慢性的な睡眠不足を自覚できていない人は多い」という――。

※本稿は、西野精治・木田哲生『最高のリターンをもたらす超・睡眠術』(大和書房)の一部を再編集したものです。

慢性の睡眠不足は自覚しにくい

「毎日しっかり眠れていますか?」。

大人向けの睡眠面談でこのように尋ねると、「まあまあ、普通に眠れています」という言葉がよく返ってきます。「では、昨夜は何時に寝ましたか?」と重ねて訊くと、「○時頃だったと思うけど......」「スマホを見ながらいつのまにか寝落ちしてしまったのでわからないです」など、返事は曖昧です。

しかし、みなさん決まって最後にこうおっしゃるのです。「でも大丈夫、仕事はできていますから」。毎日忙しいのだから、そんなものだと思っているのかもしれません。しかし、脳の働きは決して「大丈夫」ではありません。

睡眠と脳の働きに関して、ペンシルベニア大学などの研究チームが行った有名な実験があります。この実験から得られた結果は、「6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」という驚くべきものでした。

2日間徹夜した人は、「自分は徹夜したから頭が働かない」と自覚できます。しかし、6時間睡眠を2週間続けた人は、頭が働いていないことを自覚できず、むしろ「普通に頭は働いている」と感じます。もしかして、あなたもそうなのではないでしょうか。

ちなみに、徹夜した人の脳の働きは、酎ハイを7~8杯飲んで酔った状態だといわれています。2日間の徹夜となると、それ以上の酩酊(めいてい)状態です。つまり、6時間睡眠を2週間続けている人は、毎日、酔っぱらった状態のような脳で、しかもそれに気づくことなく仕事や勉強、社会的な活動などをこなしているわけです。

睡眠不足による体の異常は察知しやすくても、脳への影響はそれだけ自覚しがたいということです。

仕事で大きなミスをしかねない

徹夜などによる短期的な睡眠不足には、誰でも対処しようとします。「今日は早く寝よう」「お風呂にゆっくり入って、体を温めよう」「お酒はやめておこう」など、今できる精一杯の工夫をするでしょう。「徹夜で疲れた」「頭も体も回復させたい」と切実に感じ、明日も脳を最高の状態にしてバリバリ働きたいと思うからです。

こうした短期的な睡眠不足には気づきやすいのですが、中長期に及ぶ慢性的な睡眠不足には気づきにくいものです。そのため、集中力が低下している状態にも気づきにくく、そのまま仕事や作業を続けていると、ミスやヒヤリハットが発生しやすくなります。やり直すチャンスがあるならば挽回もできますが、とり返しのつかない事故を招いてしまうようなケースも実際にはたくさん起こっています。睡眠不足による脳のパフォーマンスダウンを自覚できないことは、とてもリスキーだといえるのです。

集中力は、仕事や学業で結果を出すために欠かせないものだと、みなさんよくご存じだと思います。ただ、パフォーマンスが高い人のことを「あの人は集中力がある」という言い方をすることもあり、集中力とは生まれつきの能力のようにとらえられている面があるのではないでしょうか。しかし、そうとは言い切れないようです。

ビジネス
「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野紗季子が明かす「愛されるブランド」の作り方
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ウォン安と不動産価格上昇、過剰流動性だけが背景では

ビジネス

12月の豪消費者信頼感指数、悲観論が再び優勢 物価

ビジネス

ベトナムEVビンファスト、対インドネシア投資拡大へ

ワールド

EUメルコスルFTAに暗雲、仏伊が最終採決延期で結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中