悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ

HOW TO BREAK THE HABIT LOOP

2023年3月23日(木)11時40分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

別の習慣に「置き換える」

現実的な目標を設定するのも有効だ。達成しやすく、その行為によるメリットを味わいやすい。こうした報酬が得られれば、習慣を継続しやすく、無意識化しやすい。

一方、ペンシルベニア大学のミルクマンは習慣化の初期段階で「誘惑の抱き合わせ」を推奨する。習慣にしたい行動と自分の好きな物事をセットにする方法だ。ジムでエアロバイクをこぐときに映画を見る(ふだん劇場へ足を運ぶ時間のない人におすすめ)、ジョギング中にオーディオブックを聴くなどだ。

つまり、本来なら無意識のうちに形成される習慣を、意識的に形成しようとするアプローチだ。この場合、まず何らかのキューを見つけ、それに好ましい行動を抱き合わせ、「ご褒美」を与える。これを繰り返せば習慣のループが強化されるわけだ。

バークマンによれば、こうした手法は「悪しき習慣」を変える場合にも使える。ひたすら年来の悪習を断とうとする禁欲的なアプローチよりも、古い習慣を別な習慣に置き換えるほうがずっと簡単だからだ。バークマンは、ロシアの文豪ドストエフスキーのこんな名言を教えてくれた。「ホッキョクグマのことは考えない、というタスクを自分に課してみるといい。たちまち脳裏に、恐怖のシロクマが1分ごとに出現するだろう」(この文章に触発された有名な社会心理学の実験がある。結果は──シロクマのことを考えるなと言われた被験者は、そうでない被験者よりもはるかに多く、シロクマのことを考えてしまったという)。

「私たちの脳に忘却という機能はない」とバークマンは言う。「コンピューターと違って、データを消去することはできない。記憶から消そうとすればするほど考えてしまう」

だから別なアプローチが必要になる。「習慣を変えたいなら」とバークマンは言う。「少なくとも最初のうちは、ギアを入れ替える必要がある」。つまり、シロクマの代わりにパンダのことを考えるとか。

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