悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ
HOW TO BREAK THE HABIT LOOP
だから私たちは、守れもしない「新年の誓い」を毎年のように繰り返す。ペンシルベニア大学経営大学院のケイティ・ミルクマン教授によると、昨年の元日にもアメリカ人の約4割が悪癖を改める誓いを立てたと推測される。だが3人に1人は1月末までに挫折し、年末までには5人に4人が失敗していたという。
SNSが脳に入り込む
しかも今は、最先端の情報技術が私たちの日常生活を支配している。ウッドに言わせると、SNSは私たちの脳の原初的な、習慣形成に関与する無意識の領域に入り込み、そこを乗っ取った。結果、今や私たちは1日に何度もスマホを開き、フェイスブックやインスタグラムをチェックするよう習慣付けられている。
SNSを通じて偽情報が急速に拡散するのも、そのせいだろう。偽情報を最初に流すのは党派的な偏見の持ち主や差別主義者かもしれないが、それを拡散させているのは無意識の習慣かもしれないとウッドは考える。つまり、みんな後先を考えずに、話題性の高い偽情報を片っ端からシェアしているらしい。
ウッドらの研究によれば、SNSのユーザーが偽情報を拡散させるか否かは、その主張に賛同するか否かよりも、習慣付けの強弱によることが多いという。
実験では数千人の被験者に16件の短文ニュース(偽情報も含む)を提示し、各人がそれをSNSでシェアするかどうかを観察した。そして被験者の党派性や批判的思考力、過去のシェア歴などを評価した上で、その行動が習慣付けられ、「自動化」されたものかどうかを判断した。
フェイスブックなどでは、情報をシェアすればフォロワーが増えるという「報酬」が期待でき、その期待感ゆえにシェアする行為が習慣化する。つまり「報酬ベース」の学習システムだ。しかるべきキュー(「いいね」のボタンなど)さえあれば「ユーザーは結果など気にせず、自動的に情報をシェアする」ものだと、研究者らは考えている。
どうやらスマホは、意図的かどうかは別として、習慣形成のために最適化されているようだ。まずは「新着あり」という通知がキュー(きっかけ)となり、それに反応すると、メールやメッセージを通じて人と交流できるという「報酬」が得られる。
だから人は、目覚めたら自動的にスマホに手を伸ばし、メールやニュースをチェックする。「スマホ依存症」という言葉もあるが、それは違うとウッドは考える。依存は「それが欲しい!」という強烈な欲求だが、「習慣に欲求は関係ない。習慣は学習のシステムであり、習慣なしに私たちは毎日を生きていけない」。