悪癖の原因は「意志の弱さ」ではない──脳の仕組みを知って悪習慣ループを脱出せよ

HOW TO BREAK THE HABIT LOOP

2023年3月23日(木)11時40分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230314p18_ASK_chart01v2.jpg

ILLUSTRATION BY PIKOVIT/SHUTTERSTOCK

だから私たちは、守れもしない「新年の誓い」を毎年のように繰り返す。ペンシルベニア大学経営大学院のケイティ・ミルクマン教授によると、昨年の元日にもアメリカ人の約4割が悪癖を改める誓いを立てたと推測される。だが3人に1人は1月末までに挫折し、年末までには5人に4人が失敗していたという。

SNSが脳に入り込む

しかも今は、最先端の情報技術が私たちの日常生活を支配している。ウッドに言わせると、SNSは私たちの脳の原初的な、習慣形成に関与する無意識の領域に入り込み、そこを乗っ取った。結果、今や私たちは1日に何度もスマホを開き、フェイスブックやインスタグラムをチェックするよう習慣付けられている。

SNSを通じて偽情報が急速に拡散するのも、そのせいだろう。偽情報を最初に流すのは党派的な偏見の持ち主や差別主義者かもしれないが、それを拡散させているのは無意識の習慣かもしれないとウッドは考える。つまり、みんな後先を考えずに、話題性の高い偽情報を片っ端からシェアしているらしい。

ウッドらの研究によれば、SNSのユーザーが偽情報を拡散させるか否かは、その主張に賛同するか否かよりも、習慣付けの強弱によることが多いという。

実験では数千人の被験者に16件の短文ニュース(偽情報も含む)を提示し、各人がそれをSNSでシェアするかどうかを観察した。そして被験者の党派性や批判的思考力、過去のシェア歴などを評価した上で、その行動が習慣付けられ、「自動化」されたものかどうかを判断した。

フェイスブックなどでは、情報をシェアすればフォロワーが増えるという「報酬」が期待でき、その期待感ゆえにシェアする行為が習慣化する。つまり「報酬ベース」の学習システムだ。しかるべきキュー(「いいね」のボタンなど)さえあれば「ユーザーは結果など気にせず、自動的に情報をシェアする」ものだと、研究者らは考えている。

どうやらスマホは、意図的かどうかは別として、習慣形成のために最適化されているようだ。まずは「新着あり」という通知がキュー(きっかけ)となり、それに反応すると、メールやメッセージを通じて人と交流できるという「報酬」が得られる。

だから人は、目覚めたら自動的にスマホに手を伸ばし、メールやニュースをチェックする。「スマホ依存症」という言葉もあるが、それは違うとウッドは考える。依存は「それが欲しい!」という強烈な欲求だが、「習慣に欲求は関係ない。習慣は学習のシステムであり、習慣なしに私たちは毎日を生きていけない」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サファイアテラ、伊藤忠商事による伊藤忠食品の完全子

ワールド

マクロスコープ:高市氏、賃上げ「丸投げしない」 前

ビジネス

メモリーチップ不足懸念、他の半導体注文に影響=中国

ワールド

マレーシアGDP、第3四半期は前年比+5.2% 1
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中