最新記事
動物

少女は熊に9年間拉致され、人間性を失った...... 「人さらい熊」の目的とは?

2023年3月17日(金)14時30分
中山茂大(ノンフィクション作家・人力社代表) *PRESIDENT Onlineからの転載

警察と医師が検視をしたところ、死因は餓死で、死後5日と判定された。たった6歳の子どもが山中を4キロもどうやって移動したのか、村人には見当が付かなかったという。

清治は直径3尺もの大きな倒木の側で発見された。下肢には草で擦った傷があり、死に顔は安らかだった。

しかも、着物や帯を枕元に置いてあり、山葡萄を三百匁(もんめ)もそなえ、ふきの葉を敷いてあった。

その様子から、当時の人々は、「老狐のために78日も養われたらしい形跡がないでもない」などと噂しあったという。(「北海タイムス」大正14年8月28日「奇蹟的な幼児の死 深山中で死体発見」より要約)

もしかすると、この事件では、ヒグマが男児をさらい育てようとしたが、うまくいかなかったのではないだろうか。

というのも、ギリシャでも次の事件が報告されているのだ。

少女は熊に育てられ、人間性をすっかり失っていた

昭和3年、オリンポス山で名高いウルダー山中で、生後間もない乳児が行方不明になった。大捜索を行ったが、子どもの行方は分からず、熊の餌食になったのだろうとあきらめていた。

9年後、猟師の一隊がとある森で一頭の大きな牝熊を発見し、射殺した。すると、熊の死体の陰から、真っ裸の少女が現れ、歯をむき出して猟師達に飛びかかった。

猟師たちはその子供をなんとか「生け捕り」にして村へ連れ帰ったが、この子供こそ9年前にウルダー山中で消息を絶った乳児だった。

この少女は9年もの間熊に育てられ、人間性をすっかり失っていた。子熊のように唸り声を発し、人間が近づくと爪を立て、歯をむいて飛びかかったという。

彼女はのちにイスタンブールの精神病院に収容され、熊から人間に生まれ変わる日を静かに待っている。(「北海タイムス」昭和12年7月29日「9年間熊と育つ 女ターザン出現 乳呑児時代にさらわれる」を要約)

まさに「カマラとアマラ」を彷彿とさせる事件である。

「カマラとアマラ」は、インド東部ベンガル地方ミドナプールの孤児院に引き取られた姉妹で、「狼に育てられた野生児」として知られている。一説には2人は精神疾患だったともされている。

動物が人間の子供を育てることは、母乳の成分が違ったり、行動学的に無理があるなど、生物学的な理由で不可能というのが定説である。

しかしこれらの事件を見る限り、ヒグマが人間の子供を慈しみ、育てようと試みることは、あるのかもしれない。

中山茂大(なかやま・しげお)

ノンフィクション作家・人力社代表
明治初期から戦中戦後にかけて、約70年間の地方紙を通読、市町村史・郷土史・各地の民話なども参照し、ヒグマ事件を抽出・データベース化している。主な著書に『神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史』(講談社)など。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州委、ロ産原油輸入停止法案先送り 「地政学的状況

ワールド

米TSA職員450人超辞職、2月政府閉鎖以降 空港

ワールド

世界経済フォーラム、サウジで4月開催の会議延期 「

ワールド

中国外相、和平交渉の早期開始呼びかけ イランのアラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下位になった国はどこ?
  • 4
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 5
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 6
    スペイン王室、王妃と王女の装いに見る「母から娘」…
  • 7
    「日本人のほうが民度が低い」を招いてしまった渋谷…
  • 8
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 9
    表情に注目...ニコール・キッドマン、大富豪夫妻から…
  • 10
    イラン戦争、トランプを泥沼に引きずり込む「5つの罠…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中