最新記事
ジェンダー

スウェーデンで「男らしさ」めぐり議論噴出...父親たちが本音を語り合うテレビ番組『3人のパパ』に賛否両論

Sweden’s “Masculinity Crisis”

2023年3月16日(木)15時00分
マーティン・ジェリン

230321p60_SDS_03.jpg

男らしさや父親としての責任について議論を巻き起こした映画『フレンチアルプスで起きたこと』 EVERETT COLLECTION/AFLO

それでも今は、少なからぬスウェーデン人が「男らしさの危機」を感じ始めている。

例えば、反フェミニズムの急先鋒であるジョーダン・ピーターソン(カナダ人)の著書はスウェーデンでも10万部以上を売り上げるベストセラーとなった。昨年9月の総選挙では若い男性の票を集めた保守連合が勝利し、新政権は直ちに「フェミニスト外交」を捨て去っている。

ここから見えてくるのは、男女同権の社会に対する男性たちの抑圧された怒りだ。例のクナウスゴールの『わが闘争』には、「私はストックホルムのモダンでフェミニズムに染まった街を歩きつつ、19世紀人の内なる怒りを覚えていた」という記述もある。スウェーデンの若き父親たちにも、伝統的なジェンダー規範を懐かしく思う気持ちがあるのかもしれない。

『3人のパパ』放映後のテレビ討論にも、同じような思いを抱く多くの男性が参加していた。ある右翼的な有識者は「よい男」の条件を定義するよう求められて言葉に詰まり、最終的には「なにごとにも限度というものがある」と答えた。そして意味不明だと突っ込まれると、「移民の数とかと同じだ」と言い捨てた。

議論を巻き起こした意義

この討論には、番組に登場した3人の父親も参加していた。その中で「よい男」に必要な資質は2つだと明言したのはオスカーションだ。1つは「そこにいる」こと(つまり家にいて、ちゃんと子育ての責任を果たすこと)。そして2つ目は、スウェーデン語で言う「リホード」。普通は「対応が早い」などと訳される単語だが、相手の気持ちやニーズを直感的に理解し、気遣う態度を指す。

だが番組を見れば分かるように、オスカーション自身もこの2つをきちんと実践できているわけではない。最終的には妻に愛想を尽かされてしまったのも、彼が週末になると隠れ家に籠もって癒やしの「カカオの儀式」にふけり、「そこにいる」という大切な役目を果たせなかったせいではないか。

スウェーデンで『3人のパパ』に最も寛容な反応を示したのは、文化評論家のナナ・ハルベリだ。彼女はスウェーデンの新聞エクスプレッセンへの寄稿で、確かに彼らの悪ふざけには耐え難い点もあると認めた上でこう書いている。

「でも彼らは、いい親になるために最善を尽くしている。今の時代に父親であるということは何を意味するのか。それを自分たちで定義しなければならない文化的空白の中で、いい父親になるという夢をひたすら追いかけている」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中