スウェーデンで「男らしさ」めぐり議論噴出...父親たちが本音を語り合うテレビ番組『3人のパパ』に賛否両論
Sweden’s “Masculinity Crisis”
よくも悪くも、スウェーデンの進歩的な男性は世界中の注目を集めている。子育ての責任を平等に分け合う父親の模範と評される一方、男の虚弱さと男女の役割逆転の情けない象徴と唾棄されることもある。なにしろこの国には16カ月の有給育児休暇があり、その全てを男性が取得する選択肢もあるからだ。
結果、「在宅パパ」の割合は世界屈指の水準になっている。男女とも取得可能な有給育児休暇が導入されたのは1974年のこと。当時、育児休暇取得者に占める男性の割合は1%に満たなかったが、今や30%(2021年)に達している。
それだけ男が家事や子育ての責任を引き受けることになったわけだが、そんな風潮を好ましく思わない人が少なからずいるのも事実。子育てに熱心な男性が「ゲイ乳母」とか「乳父」と呼ばれることもある。どちらも、自分の時間を子守りに費やすのは「男らしくない」と信じる人たちが繰り出す蔑称だ。
一方で「父親らしさ」の意味を真摯に問い直す動きもある。ルーベン・オストルンド監督の映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年)は、雪崩の迫る村で自らの命を守るために家族を見捨てた父親の姿を描き、さまざまな議論を引き起こした。ノルウェーの作家カール・オーベ・クナウスゴールも自伝的小説『わが闘争』に、乳母車を押して街を歩く「私」に突き刺さる日本人観光客の冷たい視線の記憶を記している。
男たちの怒りが噴出
だがクナウスゴールをよく知るイギリスの女性作家ゼイディー・スミスに言わせると、スウェーデンなど北欧3国で男女平等が(それなりに)進んでいるのは、そこに暮らす男たちがアメリカなど諸外国の男より「まとも」だからではない。ジェンダーの平等や男性の子育て参加を促す政策や制度が、国家レベルで整備されているからだ。
むろん、スウェーデンとて完璧ではない。だがアメリカに比べたら平等天国だ。なにしろ政府レベルで、ここまでフェミニストの主張を採り入れてきた国はほとんどない。1973年からジェンダー平等担当相を置いているし、昨年9月の政権交代までは外務省が「フェミニスト外交」を推進していた。海外でのジェンダー平等実現に予算をつぎ込み、人道支援でもジェンダーに配慮してきめ細かく対応し、大使のほぼ半数に女性を起用してきた。
結果として、子育て中の親の抱く幸福感も上昇しているようだ。先進22カ国を対象として17年に実施されたワークライフバランスに関する調査によると、アメリカ人は親になると幸福感が急激に低下するのに対し、ジェンダー平等がより高い水準で実現されているスウェーデンやノルウェー、フィンランドでは逆に幸福感が増していた。