最新記事
ジェンダー

スウェーデンで「男らしさ」めぐり議論噴出...父親たちが本音を語り合うテレビ番組『3人のパパ』に賛否両論

Sweden’s “Masculinity Crisis”

2023年3月16日(木)15時00分
マーティン・ジェリン

230321p60_SDS_02.jpg

スウェーデンでは今や有給育児休暇を取得する人の3割が男性 MASKOT/GETTY IMAGES

よくも悪くも、スウェーデンの進歩的な男性は世界中の注目を集めている。子育ての責任を平等に分け合う父親の模範と評される一方、男の虚弱さと男女の役割逆転の情けない象徴と唾棄されることもある。なにしろこの国には16カ月の有給育児休暇があり、その全てを男性が取得する選択肢もあるからだ。

結果、「在宅パパ」の割合は世界屈指の水準になっている。男女とも取得可能な有給育児休暇が導入されたのは1974年のこと。当時、育児休暇取得者に占める男性の割合は1%に満たなかったが、今や30%(2021年)に達している。

それだけ男が家事や子育ての責任を引き受けることになったわけだが、そんな風潮を好ましく思わない人が少なからずいるのも事実。子育てに熱心な男性が「ゲイ乳母」とか「乳父」と呼ばれることもある。どちらも、自分の時間を子守りに費やすのは「男らしくない」と信じる人たちが繰り出す蔑称だ。

一方で「父親らしさ」の意味を真摯に問い直す動きもある。ルーベン・オストルンド監督の映画『フレンチアルプスで起きたこと』(2014年)は、雪崩の迫る村で自らの命を守るために家族を見捨てた父親の姿を描き、さまざまな議論を引き起こした。ノルウェーの作家カール・オーベ・クナウスゴールも自伝的小説『わが闘争』に、乳母車を押して街を歩く「私」に突き刺さる日本人観光客の冷たい視線の記憶を記している。

男たちの怒りが噴出

だがクナウスゴールをよく知るイギリスの女性作家ゼイディー・スミスに言わせると、スウェーデンなど北欧3国で男女平等が(それなりに)進んでいるのは、そこに暮らす男たちがアメリカなど諸外国の男より「まとも」だからではない。ジェンダーの平等や男性の子育て参加を促す政策や制度が、国家レベルで整備されているからだ。

むろん、スウェーデンとて完璧ではない。だがアメリカに比べたら平等天国だ。なにしろ政府レベルで、ここまでフェミニストの主張を採り入れてきた国はほとんどない。1973年からジェンダー平等担当相を置いているし、昨年9月の政権交代までは外務省が「フェミニスト外交」を推進していた。海外でのジェンダー平等実現に予算をつぎ込み、人道支援でもジェンダーに配慮してきめ細かく対応し、大使のほぼ半数に女性を起用してきた。

結果として、子育て中の親の抱く幸福感も上昇しているようだ。先進22カ国を対象として17年に実施されたワークライフバランスに関する調査によると、アメリカ人は親になると幸福感が急激に低下するのに対し、ジェンダー平等がより高い水準で実現されているスウェーデンやノルウェー、フィンランドでは逆に幸福感が増していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中