最新記事
少子化対策

子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」

2023年3月24日(金)13時30分
浜田敬子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

こうした国々に共通するのは、家事育児といった無償のケアワークは女性がするものという性別役割分業意識だ。男性の家事育児時間は短く、職場は長時間労働の男性中心で回ってきた。

韓国では1997年に直面した経済危機で多くの男性たちが失業して、女性たちが働くようになったが、保育園など社会インフラが整っていないために出産を諦めたり先延ばしにしてきたことが急激な少子化の一因と言われている。

育休から復職した女性がリタイアしてしまう理由

では、日本ではどうか。

2000年代になって法改正が進んだことから大企業を中心に育児休業制度や短時間勤務制度など両立支援制度は徐々に整備され、仕事と子育ての両立はしやすくなった。だがその制度を使っているのは誰かと言えば、育休も時短勤務もほぼ女性たちだ。

仕事を辞めずに済むようにはなったが、今度は「マミートラック」というようにキャリアに展望を抱けず、やりがい喪失といった新たな問題を生んだ。職場でも主力選手として見られない子育て中の女性は、家庭でも職場でも性別役割分業に晒され続け、家事育児の負担に加えて仕事も、という新たな重荷を背負うことになった。

育休から一度復職したものの、両立のハードさに耐えかね、職場ではやりがいを感じられないことから退職を選ぶ女性も少なくない。そしていったん退職してしまうと、再就職の際に正規雇用の道がほぼ閉ざされてしまう現実がある。

出産後、所得の70%が減る「ペナルティー」

ここに来て、岸田首相は「年収の壁」の見直しにも言及し始めた。パートなどで働く妻の年収が103万を超えると所得税が発生し、106万円および130万円を超えると扶養家族の対象外となり社会保険料の負担が生じることから、多くの女性がこの壁を超えないように就労時間を調整している。

私は女性も経済的な自立をすべきという立場からこの壁の見直しは進めてほしいと思っているが、首相が見直しを言い出したのは労働現場の「人手不足」の解消のためだ。

経済学には「チャイルドペナルティー」という考えがある。これは子どもをもつことがペナルティーを受けるということではなく、子どもをもつことによって所得が減ることを指す。財務省財務総合政策研究所の古村典洋氏の研究によると、このチャイルドペナルティーの割合を日本とデンマークで比較した結果、デンマークでは出産後の所得の落ち込みが30%に過ぎなかったものが、日本では70%程度にものぼるという。

出産前に正社員で働いた経験のある人でもペナルティーは発生し、短期的には60%程度、中長期的には40%程度の所得を失う。これが非正規社員になると出産によって退職を余儀なくされるケースが多いからか、短期的には約80%、中長期的には約60%の減少となっている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏首相、年金改革を27年まで停止 不信任案回避へ左

ビジネス

米ウェルズ・ファーゴ、中期目標引き上げ 7─9月期

ビジネス

FRB、年内あと2回の利下げの見通し=ボウマン副議

ビジネス

JPモルガン、四半期利益が予想上回る 金利収入見通
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中