最新記事

スポーツ

「運動部の部活は人格形成に必ず役立つ」はウソ 「運動選手ほど規則を軽視する」衝撃の調査も

2023年1月9日(月)14時25分
大峰光博(名桜大学准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

誤審を黙認するアスリートは公正さを尊んでいると言えるか

続けて、審判の誤審に関する回答を紹介しましょう。

図表2 審判の護身に関する回答

大学生アスリートと高校生アスリートの受け入れる割合に開きがありますが、審判による誤審を黙認することを、大学生は約3人に2人が、高校生でも約半分が受け入れるという驚きの結果になっています。

これほどまでに高い数値となったことについて、Strandらは、誤審がアスリートたち自身の責任というよりむしろ、ルールを執行する審判の責任であると考える傾向があるためであると考察しています。審判のジャッジを尊重していると言えば聞こえは良いですが、自身にとって不利になる判定であれば当然、審判に対する抗議は行われます。誤審の黙認は、先ほどのトラッシュトークのように何らかのルールに違反しているわけではありませんが、公正さを尊ぶ態度が養われているとは言えないでしょう。

スポーツと日常生活で求められる倫理観は異なる

日本の大学生・高校生アスリートに同様のアンケートは実施されていませんが、運動部活動に参加する生徒は反社会的傾向が高く、学校での逸脱傾向が高いという研究(注)も存在します。ここでいう反社会的傾向とは、先生や友達に対するいじめや、授業中に大声を出して騒ぐ行為などを指します。

(注)部活動への参加が中学生の学校への心理社会的適応に与える影響

哲学者である川谷茂樹は、スポーツは日常の倫理との緊張関係にあり、ほとんど不可避的に倫理的問題を引き起こす、危険な代物であると指摘しました。スポーツは日常生活で禁止される行為が許容される、独特のスポーツ倫理(対戦相手の弱点を攻める、対戦相手の嫌がることをする、殴る・蹴る・絞める・体当たりといった身体的攻撃をする)が存在するためです。

日常生活で殴る等の行為によって他人に怪我を負わせれば、暴行罪や傷害罪が適用されます。しかしながら、ボクシングやラグビーでは、他人を殴ったり体当たりをしても、暴行罪や傷害罪には問われません。なぜなら、刑法第35条には「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」とあり、スポーツは「正当な業務による行為」とされるためです。つまり、日常生活で禁止されている殴る・体当たりという行為は、スポーツの世界で例外的に許容されていると言えます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシアとの貿易協定、崩壊の危機と米高官 「約

ビジネス

米エクソン、30年までに250億ドル増益目標 50

ワールド

アフリカとの貿易イニシアチブ、南アは「異なる扱い」

ワールド

グリーンランド、EU支援の黒鉛採掘計画に許可 期間
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中