最新記事

スポーツ

「運動部の部活は人格形成に必ず役立つ」はウソ 「運動選手ほど規則を軽視する」衝撃の調査も

2023年1月9日(月)14時25分
大峰光博(名桜大学准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

学生はどこまでスポーツのルールを順守するか

まず、Bradford Strand(米ノースダコタ州立大学)らが2010年と2018年に発表した、アメリカの大学生アスリートと高校生アスリートを対象にした調査結果を紹介します。ゲームズマンシップ(gamesmanship)という、ルールの範囲内、もしくはルールを破って実践される、試合で勝利するための行動に関する調査です。スポーツと教育を論じる上で示唆に富んだ内容です。

調査の対象となったのは、アメリカの4つの大学に所属する455人(男性283人、女性172人)と、16の公立高校に所属する273人(男性105人、女性142人、ジェンダーを明確にできなかった26人)です。25の質問項目があり、怪我をしている箇所への攻撃、報復死球、威嚇・脅し、得点の積み上げ、審判へのだまし、トラッシュトーク(言葉による攻撃)、派手なパフォーマンス、誤審の黙認、非公開情報の活用などについてどう思うかを問うものとなっています。

大学生の半分以上がトラッシュトークを許容する

図表1に研究結果の一部を紹介します。

図表1 試合で勝利するための行動に関する調査

トラッシュトーク(例えば、得点者が相手ディフェンダーに「お前はへぼだ」などと言う)について尋ねた項目では、大学生アスリートの半分以上が、高校生アスリートでも約5人に1人が許容するという結果になっています。また、ブーイングややじであれば許容されることにイエスと回答した大学生は約3人に1人という結果になりました。

これほどまでの学生・生徒がトラッシュトークややじを許容する背景には、彼らが目標とするプロスポーツ選手たちがトラッシュトークを試合で日常的に用いていることが影響していると考えられます。

ノースカロライナ大学のスターであった、バスケットボールの神様であるマイケル・ジョーダンは、激しい闘争心から有名なトラッシュトーカーでした。また、世界中で大きく報じられた2006年サッカーワールドカップ決勝でのジダンによる頭突きは、対戦チームの選手との間でのトラッシュトークが引き鉄となりました。

ベンチにいるプレイヤーが対戦チームをあざけり、やじることはアメリカのみならず日本においても行われています。運動部活動だけでなく、少年野球などにおいても行われてきたことは多くの人が知るところです。

バスケットボールやサッカーのみならず、どのようなスポーツにおいても通常は、選手が対戦相手を侮辱・攻撃する発言は競技規則で禁止されています。明確にルールで禁止されているにもかかわらず、他者を傷付ける行為を許容する態度は、決して社会性が養われているとは言い難いでしょう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、経済の一部セクター減産に不満 均衡

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中