勉強する子もしない子も「スマホを触るとバカになる」は本当 7万人調査で判明「スマホと学力」の関係
ですから「携帯・スマホの使用時間が長いから、学力が低下する」かもしれませんが、「携帯・スマホの使用時間が長いから、睡眠時間が短くなり、そのために学力が低下する」のかもしれません。後者であれば、学力低下の直接の原因は睡眠時間で、携帯・スマホの長時間使用は間接的な原因となるわけです。
こうした問題点を解消しようと、仙台市と私たちのさらなる調査・研究が始まりました。最初にやったのが、仙台市教育委員会と相談のうえで、7万人を超える児童・生徒(小中学生)1人ひとりにID番号を振り、平成26年度調査から追跡できる環境を整えたことです。
子どもたちの成績や、さまざまな生活状況のアンケート結果を含むデータを集めるわけですから、個人情報の厳重な保護が必要です。
そこで「連結可能匿名化」という手法を使いました。私たち大学側の研究者は、ある番号の児童・生徒のデータを1年目、2年目、3年目と追い続けることができますが、その児童・生徒がどこの誰であるかは、一切知ることができない仕組みです。
睡眠時間、学習時間は関係ない...スマホが脳をダメにする
携帯・スマホによる学力の低下に私が気づいた平成25年(2013年)の調査から、「10年ひと昔」に近い年月がたとうとしています。
スマホの使用と子どもたちの学力低下について、現時点でわかっているのは、次のような事実です。以下の「スマホ」には携帯電話を含みますが、ご承知のように、すでに携帯の多くがスマホに置き換わっていますので、「スマホ」で統一します。
まず1つ目は、スマホ使用による子どもたちの成績の低下は、自宅での「学習時間」の長さとは直接に関連していませんでした。スマホを長時間使ったから、家での勉強時間が削られ、その結果、学力が低いわけではないのです。
2つ目は、成績低下は、「睡眠時間」とも直接に関連していませんでした。スマホを長く使ったから睡眠時間が削られ、その結果、学力が低いわけでもないのです。
学力低下が先か、スマホが先か(どちらが原因で、どちらが結果か)には、決着がつきました。全員を何年も追跡できたことで、どの時点でスマホを持った、あるいは持つのをやめたとわかり、その後に成績のレベルがどう変わったか観察できたからです。
そして、3つ目は、明らかにスマホが原因で、結果的に学力が低下していました。
これは、学力の低い子どもに長時間使う傾向があったのではありません。スマホの使用時間が長ければ長いほど学力の低下の程度が大きくなったのです。さらには、スマホを始めると成績が下がり、スマホを手放すと成績が上がることもわかっています。
川島隆太
1959年生まれ。千葉県千葉市出身。東北大学加齢医学研究所所長。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。1985年東北大学医学部卒業、1989年東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、同講師、東北大学未来科学技術共同研究センター教授を経て2006年より東北大学加齢医学研究所教授。2014年より東北大学加齢医学研究所所長。2017年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長兼務。著書は『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)『さらば脳ブーム』(新潮新書)『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(アスコム)など、300冊以上。