最新記事

環境

公園の池の水抜く「かいぼりしたら死の池に」 魚が消え、鳥まで来なくなった......

2022年12月15日(木)11時32分
石浦章一(東京大学名誉教授) *東洋経済オンラインからの転載

でも、もしそんなことをしたら大変なことになります。一帯が暑くなって、巨大な上昇気流が起こる。これは煙突みたいなものです。竜巻のような嵐が出てくるのは当然なんです。こんなことをしたら地球環境がむちゃくちゃになってしまいます。

さらに、メガソーラーを導入してしまうと、その建設地にいた小さな虫がいなくなってしまうという問題もあります。『絶滅危惧の地味な虫たち』(小松貴著、筑摩書房)を読むと、メガソーラーの普及により、絶滅の恐れがあるメクラチビゴミムシの生息地が失われていることがわかりました。

彼の言い分では、保護されているのはきれいなチョウや大型の甲虫などばかりで、小さくて地味な虫は保護されていない。だからこのような「絶滅危惧種を保護しよう」などという運動は、「人間にとって」きれいなものだけが対象ではないかと怒っているわけです。確かにそのとおりです。目に見えないようなものは保護されていないのです。

タダの自然は高くつく

ここでもう一度ちょっと考えてみましょう。どうして再生可能エネルギーが大事だとみんなが考えるようになったのか。

実は、こういうことなんです。人工的なものはいつか破綻するだろう。原発がそのよい例である。だから自然のもののほうがいいに決まっている。自然のものはタダだ。資源が無尽蔵だからいいのだというのです。

ところが、最初は非常にいい試みだとみんなが思ったわけですが、間違いだということがだんだんわかってきました。コストも非常に高いし、気象はコントロールできません。だから安定供給ができないのです。安定供給ができないということは、ひたすらお金だけがかかってうまく使えないということになります。もちろん、これを効率よく使えるようにするのも一つの方法なのですが、今の段階ではまったく役に立たないという考えがだんだん広まってきたのです。

例えば、潮力を使った潮流発電も期待とおりには進んでいません。潮流発電というのは、自然に起こる潮の満ち引きを使うわけですから、タダのエネルギーです。これもまたいいのではないかとみんな思ったわけですが、実際にやってみると、実用化が難しく、なかなか使い物にならないことがわかりました。

「保護」と「保存」と「保全」の違い

ここで、ちょっと大事なことを覚えておいてください。「保護」と「保存」と「保全」の違いです。

「日本人はなぜ科学より感情で動くのか」「保護 (protection)」というのは、対象物に対して外部からの改変しようとする力を除き、自然状態のままにしておくことです。これはどういうことかというと、例えばアマミノクロウサギを保護しなきゃいけませんねというと、奄美の自然をそのままにしておけばいいということになります。

次に、「保存 (preservation)」は何かというと、必要に応じて修復しなければいけないものが対象です。例えば、平安時代に造られた建物はだんだん腐ってくるわけですが、それをちゃんと修復しておいておく、ということが保存になります。

さらに、「保全(conservation)」とは何かというと、これはより良い状態にすることで、改善することも含む概念です。こちらのほうが人間の力がたくさん入っている。それを保全と言います。

だから、この3つは違う意味だということは知っておいてください。特に、「環境保全」は違う意味に使われていることが多いので、注意が必要です。

石浦章一

東京大学名誉教授
1950年石川県生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院理学系研究科相関理化学博士課程修了。専門は分子認知科学、サイエンスコミュニケーション。東京大学名誉教授、新潟医療福祉大学特任教授、京都先端科学大学特任教授、同志社大学客員教授。近著には『理数探究の考え方』(筑摩書房)、『サイエンスライティング超入門』(東京化学同人)、『小説みたいに楽しく読める生命科学講義』(羊土社)など。編著や訳書も多数。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

オラクルやシルバーレイク含む企業連合、TikTok

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて

ワールド

米国民、「大統領と王の違い」理解する必要=最高裁リ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中