最新記事

教育

高まる医学部人気の裏で...「偏差値が高いが人を診られない医師」を減らすにはどうするか

2022年12月8日(木)08時05分
小倉加奈子(順天堂大学医学部 人体病理病態学講座 先任准教授)
子供,理系

Ableimages-iStock.

<医療を受ける側のひとりの人間として、医療や医学を考えるプロジェクト「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」が発足。中高生から学ぶ、「リベラル・アーツ的医学」とは?>

医学部人気が続いている。医療系の学部は、卒業して国家試験にパスすれば、大学で学んだ知識がそのままダイレクトに仕事に生かせるというのはとても魅力的であるし、どんな状況においてもなんとか食べていけるだろうということで、その人気もうなずける。

しかし、その一方で大学入学後に進路を変更するのは難しく、また、専門以外の様々なジャンルについて学び、教養を深めていくことについては、個々の学生の自覚や努力によるところも大きい。

ボランティア活動も積極的に行い、コミュニケーション能力を育みつつ、医学以外の科目を専攻して学部時代(Undergraduate)を過ごし、それからメディカル・スクールに進学する欧米のシステムでは、別の学問を学んできた知識と経験、そして社会での医療の在り方を考える時間もある。

一方、日本の場合は、高校時代、場合によっては中学時代から医学部入学のための効率的な受験勉強に向かう場合が少なくなく、受験に関係のない文系科目にはほとんど触れないというケースもある。また、理系科目が得意で偏差値が高いからという理由で、なんとなく医学部進学を目指す高校生も一定数いる。

医学部入試を見事、突破して、「これこそ自分が学びたかった学問だ!」と、医学の勉強に開眼できれば幸せだし、医師になるまでに、様々な医療問題にも多少の関心を持ちながら、「将来はこういう医師を目指したい」という目標がおぼろげながら見つかるのであれば幸運だろう。

しかし、実際には入学してから過酷な医学部カリキュラムについていけなかったり、興味が持てなかったりするという悲劇も起きている。医師として不可欠なコミュニケーション能力に大きな問題を抱える学生がそのまま医学部を卒業し、医師国家試験に合格し、研修医となってしまうケースもある。

自分が卒業してからどんな医師になりたいのかもわからず、医師という職業に関心が持てなかったり、そもそも、患者や仲間の医療スタッフと対話ができず、診療を進めていくこと自体の能力がない場合、医師として生涯を全うするのは厳しい。

そもそも「医学は医学部で学ぶもの」という認識から改める時期に来ているのではないだろうか。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中