最新記事
ヘルス

あなたも脳の老化が始まっている!? 40代から始まる前頭葉委縮の初期兆候

2022年10月21日(金)14時50分
和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授) *PRESIDENT Onlineからの転載
脳のCT画像

脳の老化は、アルツハイマー症といった記憶障害よりはるかに前に前頭葉で起こっている。 *写真はイメージです haydenbird - iStockphoto


脳の老化は40代から始まっている。頭蓋骨と脳の前頭葉にあたる部分に隙間ができる。医師の和田秀樹さんは「高齢化して前頭葉の委縮による脳機能の低下がすすむと、感情のコントロールができず暴動老人化したり、意欲低下や前例踏襲思考が目立ったりすることがある。行きつけの店にしか行かなくなる、同じ著者の本しか読まない、といった行動は前頭葉機能の低下の初期徴候の可能性が高い」という――。


村田兆治氏は老化に伴う前頭葉の機能低下の可能性

新しく勤務することになった大学の公務でオーストラリアに行っていたのだが、現地で日本のネットニュースを読んで驚いた。

9月23日に「マサカリ投法」で知られる名球会投手の村田兆治氏(72歳)が逮捕されたというのだ。事件の概要を読むと、羽田空港で金属探知機に何度もひっかかったことをきっかけに職員と押し問答となり、相手の肩を押したという話だった。

大した事件でないようにも思えるが、かなり激しい暴行レベル(男が暴れているという通報で警察がきたとのことだ)のことだったから現行犯逮捕になったようにも思える。

北海道で開催される子供たちのための野球イベントに向かうために羽田にきたということだからお酒を飲んでいたわけでもないだろう。

診察したわけではないから断言はできないが、高齢者を数多く診てきた経験でいくと、今回の村田氏の行動は老化に伴う前頭葉の機能低下による可能性がある。高齢化することで感情のブレーキがかからなくなる人は珍しくない。

いわゆる「暴走老人」と言われるパターンだ。

ファミリーレストランで頼んだものがなかなか出てこないと激怒する。市役所の職員の対応が気に入らないと怒鳴りつけ、それが止まらない。駅の係員の対応が悪いと、傘で殴る。

このようなニュースをしばしば目にする。私はこれを前頭葉機能の低下が原因である可能性があると考えている。

この機能が低下すると意欲が低下したり、創造性が低下したり、新しいことへの対処が悪くなるとされているが、もう一つの重要な問題は感情のコントロール、とくに怒り感情のブレーキがかかりにくくなることだ。

脳の老化は記憶障害よりずっと前に前頭葉で起こる

怒りなどの原始的感情は、大脳辺縁系と呼ばれる脳の中でも進化上古い時代からあったとされる部分で生起されるのだが、それにブレーキをかけるとされるのが新皮質、とくに前頭葉である。

「ここで怒ったら、社会的地位を失う」
「手を出したら、警察沙汰になる」
「今の時代は、いつどこでスマホ撮影されたり、録音されたりするかもしれない」

このような思考や記憶を通じて、怒り感情を言動に変えることにブレーキをかけるのだ。

ところが、その前頭葉のブレーキ機能が高齢になると衰えてくる。ふだんは温厚で柔和な性格だと思われている人が、何かに怒りを覚えるとそれが止められず、つい手が出てしまったり、声を荒げたりしてしまう。場合によっては、本当に警察沙汰になってしまうのだ。

脳の老化というと記憶障害などを問題にする人が多い。9月28日、米ジョー・バイデン大統領(79歳)があるイベント会場で演説中、今年8月に亡くなった下院議員を探す姿を見せた。その代議士が他界した際にそれを悼む声明を発表しているので、「物忘れが進んでいる」という臆測を呼んだ。

退任後5年目でアルツハイマー病を公表したロナルド・レーガン大統領は、二男の回顧録によると第一期目の終わりには、すでに異変を感じていたという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中