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ゴミ分別しない人にぜひ知ってほしい焼却停止の大損失 東京の埋立処理はあと何年できる?

2022年4月9日(土)14時58分
藤井 誠一郎(大東文化大学法学部准教授) *東洋経済オンラインからの転載

それだけでなく、操業停止となった清掃工場にごみを搬入している区側では、ほかの清掃工場への遠距離搬入が強いられ、定時収集を行うため追加で清掃車両を手配するコストが生じた。このように、清掃工場が計画外停止するたびに、高額のコストがかかり住民の税金がやむをえず使われるようになってしまう。

この状況に対し、①収集・運搬と②中間処理が同じ地方自治体により運営されていれば、清掃工場での緊急停止を防止するようなごみの分別排出を住民に促しながら、清掃職員は注意深くごみを収集していくような取り組みが積極的に推進されていったと筆者は考えている。

また、不十分な分別に起因する清掃工場の緊急停止でどれぐらいの損失になるのか、広報紙などを通じて直接的に住民に伝えられるようになるであろう。

しかし現状では、清掃一組は清掃工場の計画外停止の情報を各区に提供しているが、各区側では積極的に住民には伝えていないように見受けられる。すると、清掃工場の計画外停止・復旧費用と徴収される税金とが直結していると住民には実感されにくくなっていく。

2つ目の歪みは、「じわりと近づく埋立地の残余年数」について。

最終処分場の延命化についての住民周知において顕著に見受けられる。先述のとおり、東京湾の最終処分場の寿命は「約50年」の埋め立てが可能と推計されているが、その後は23区で処分場を確保する必要がある。

実際に処分場を23区内に確保するのは不可能であるため、最終処分場の延命化が有効な手段となる。よって最終処分場への搬入量を減らすほかなく、ごみの排出量の削減が大きな効果を及ぼすようになる。

しかし、このような最終処分場の状況を各区が積極的に住民に伝えているとは言いがたく、住民の認知度は低い。各区の広報誌においてごみ減量やリサイクルについては取り上げられるが、最終処分場の延命化の視点から取り上げられるケースはそれほど見受けられない。

ごみについて知ろう

もし、①収集・運搬、②中間処理、③最終処分が同一自治体で運営されていたり、横の連携がもう少し強固であれば、最終処分を意識したごみの減量や分別が住民に積極的に周知されるであろう。また、住民も積極的に最終処分場の有限性を前提としたごみの削減を行う必要性に気づくであろう。

"ごみ"に関心を少しはもっていただけただろうか? 出したごみのその後がわかってくると、自分の出したごみがどのような影響を及ぼすのかが理解できるようになるだろう。そうすることによって、ごみの量を極力減らしたり、ごみを出す場合は自治体のルールにのっとって分別し決められた曜日に出したりするなどのちょっとした意識が変わってくる。

ごみの向こうには人がいる。目に見えないところで、安心・安全な衛生的な暮らしを維持するためにたくさんの清掃従事者が尽力していることを忘れずに、ごみに関心をもっていただくことを切望している。

藤井 誠一郎(ふじい せいいちろう)

大東文化大学法学部准教授
1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部専任講師などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
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