理想の子供像を押し付けず、豊かな個性を尊重して「生きやすさ」を育む意味
Cultivating Individuality
敏感、活発、引っ込み思案など、生まれながらの気質は周囲との関わりを受け性格を形成する(写真はイメージです) Yagi-Studio-iStock
<内向的、活発、短気......生まれ持った個性はさまざま。その子らしさを生かした働き掛けで自己肯定感を育んで>
1歳のわが子がちょっとしたことでかんしゃくを起こしてばかりいたら......。ママはなだめたり叱ったり、生まれつきの性格かとため息をついたりしてしまうかもしれない。
でもそんなとき、慌てず騒がずそっと手を当てて寄り添い、「びっくりしたね」「怒っているんだね」と感情を代弁してあげたらどうだろう。気持ちが落ち着くのを待って、友達と仲直りする方法をそっと教えてあげたとしたら?
小学校に入る頃にはかんしゃく癖も収まり、自分の気持ちを言葉で伝えられる子になった──そんな例は数多い。
「赤ちゃんはそれぞれの性格のベースになる個性(気質)を持って生まれ、それらが養育者や社会との関わりのなかで育成されてその子の性格となっていく」と、公認心理師で育児相談室「ポジカフェ」を主宰する佐藤めぐみは言う。
これは、1963年にアメリカの心理学者アレクサンダー・トマスらが行ったニューヨーク縦断研究に基づく意見だ。この研究では140人の乳幼児を対象に、活発さ、注意のそれやすさ、粘り強さ、五感の敏感さなど9つの気質特性を5段階で評価した。その評価を組み合わせた結果、乳幼児期で既に扱いやすい子が40%、扱いにくい子が10%、順応が遅い子が15%、平均的な子が35%と、4タイプがあることが明らかになっている。
なお、持って生まれた個性は、養育者がその子に没頭する(懸命に向き合い世話をする)ことで形を変えていくことも分かっている。
発達臨床心理学を専門とする白百合心理・社会福祉研究所の青木紀久代所長は、親子関係の質と子供の人格形成の関連について長期的な観察を行った自らの研究結果から、次のように語る。「例えば産院にいたときは夜泣きなど疳(かん)の虫が強く、尖った個性を持っていても、母親をはじめとする養育者が世話に没頭することで、次第にそれがマイルドなものとなり、1カ月健診の頃には支障のない範囲のものとなることが多い」
ただし、持って生まれた気質のようなものは、変わることなく息づいていく。引っ込み思案な子を突然活発にしたり、外向的な子を無理やりに落ち着かせたりするのはやはり難しい。「親の理想とするところに子供を当てはめようとするより、その子の個性を生かし、その子らしく生きやすいようにするのが一番だ」と青木は言う。
佐藤によると、かんしゃくが強い、引っ込み思案などの個性には、次のような接し方が効果的だという。「かんしゃくは親が根負けしてしまうと定着しやすいため、ルールを守る練習を取り入れることも大切。子供は加点法を好むので、テレビは1時間というルールも『45分で一度止められたら、食後に15分追加』のようにすると遵守しやすくなることが多い」