最新記事

コミュニケーション

「世界でもっとも有名なセレブ女性から電話番号を聞きだす」 ハリウッドの伝説のナンパ師が使った禁断のワザ

2022年1月16日(日)13時00分
橘 玲(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

非モテの若者だったジェフリーズは、認知心理学者・言語学者のジョン・グリンダーが心理学部の学生リチャード・バンドラーとともに開発したNLP(神経言語プログラミングNeuro-Linguistic Programming)に衝撃を受けた。グリンダーとバンドラーは、ミルトン・エリクソンの「アルファ催眠」を徹底的に研究し、マニュアル化したのだ。

エリクソンは20世紀のアメリカでもっとも大きな影響力をもった心理療法家で、その催眠技法はこう説明されている(※2)。

彼(エリクソン)は、伝統的な催眠技法とちがって、振り子などのそれらしい小道具も、奇妙な舞台装置も、いっさい用いません。だれもがしているごくふつうの日常会話を交わしているうちに、相手を、いともたやすくトランス状態に誘導してしまいます。

「私は絶対に催眠なんかにかからないぞ」と頑強に抵抗する人も、博士の手にかかると、なんなくトランスに入ってしまうのでした。

あいての「頑強に抵抗する力」を逆に誘導に利用してしまったのです。ちょうど、すぐれた柔道家が、相手の力を利用して技をかけるように。

バンドラーとグリンダーはエリクソンの催眠を記録した映像や講演をもとにそのテクニックを解明し、NLPとして体系化した。2人のセミナーには、「教育、指導、販売、プレゼンテーション、説得」などに催眠を利用したいひとたちが押し寄せた。

ジェフリーズもその一人で、目的はピックアップ(ナンパ)への応用だった。そして、「5年間にもわたってセックスレスの生活を送りながら」、何気ない日常会話を通じて女性の潜在意識にはたらきかけ、自在に操る「スピードナンパ術」を完成させたのだ。

悪魔のようなテクニック

NLPでは、わたしたちは無意識のうちに、世界を自分なりの「フレーム(額縁)」で見ていると考える。世界(社会)はあまりにも複雑で、脳のかぎられた認知能力ではすべての情報を処理できない。だとしたら、フレームの位置を動かすことで、ひとの認知や感情に影響を及ぼすことができるはずだ。

この考えは異端の説ではなく、現在では認知療法としてうつ病や不安障害の治療に使われ、心理療法(セラピー)の主流になっている。心理学者のキャロル・ドゥエックが提唱して有名になった「マインドセット」は、NLPの「フレーム」を言い換えたものだ。

脳は、フレームのなかのものは重要だと感じ、フレームの外側はどうでもいいものとして無視する。だとしたら、女性の関心を惹くためにはまず、自分を相手のフレームに入れなければならない。これがすべてのPUA(ピックアップ・アーティストPickup Artist=ナンパ師)の基本だ。

ジェフリーズはニールの目の前で、レストランのウェイトレスを相手にNLPを実演してみせた(※3)。

なにげない雑談から、「誰かに心の底から惹かれたとき、どうやって気づく?」という恋愛の話に展開し、ウェイトレスが「なんだかドキドキするような、妙な気持ちになるわ」と答えると、ジェフリーズは、手のひらを彼女の腹のあたりからゆっくり心臓の高さまで上げ、「君がもっと惹かれていくにしたがって、もっとドキドキしてくるはずだ」と囁いた。

そうやって2~3分、エレベーターのように手のひらを上下させ、催眠術をかけるように語りかけると、彼女の瞳は陶酔しているようになり、頬がどんどん赤らんできた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国与党、韓前首相指名を否決 大統領選候補一本化迷

ビジネス

米中、貿易問題巡る初日協議終了 トランプ氏「良い協

ワールド

インドとパキスタン、互いに停戦違反と非難 係争地で

ワールド

アングル:欧州移住に関心強める米国人、「トランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中