最新記事

日本社会

アフターピル市販で「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い 日本の医療、年配男性の「有識者」が決めている

2020年10月25日(日)12時36分
久住 英二(ナビタスクリニック内科医師) *東洋経済オンラインからの転載

そもそもなぜ日本では、アフターピルの入手が困難な状態のまま、ある種"聖域"化されてきたのか。OTC化が決して早くはなかったアメリカでさえ、議論に決着がつき解禁されたのは2013年のこと。このままでは日本は10年以上の遅れを許しかねない。

2017年にOTC化が見送られた際の反対側意見が、議事録(厚生労働省、2017年7月26日第2回医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議)に残されている。

「この薬品が避妊の目的であることを悪用する」
「簡単に避妊できることを根拠に、避妊具を使うことが減ったり、性感染症が増える」
「例えば13歳や14歳でも買う可能性が出てくる時代になっていますから、そういうときにどうするか」
「もしかすると、消費者の方は、(中略)常備薬的に自宅に置いておく可能性が出てくる」

同じくアフターピルの初診からのオンライン診療を「時期尚早」とする人々の意見も、検討会の議事録(厚生労働省、オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会)から読み取れる。

「日本でこれだけ若い女性が性に関して知識がない状況で、(中略)責任が持てないと思う」
「本当に簡単に若い女性が、ここでもらえるという感じでやられたら(=オンライン処方させたら)、これは非常に悪用になってしまうし、あるいは転売などという話も出てくるかもしれない」

ほかにも薬剤師など提供側の理由は挙げられているが、少なくとも利用者側については、心配しつつもその実、「知識が足りないし、信用できない」と言っているに等しい。対面診療を死守しなければ「若い女性の性が乱れる」とでも言わんばかりである。

科学的な議論でなく、ただのおせっかい?

だが、そうした懸念のほとんどは、ただのおせっかいにすぎない可能性がある。

さまざまな避妊方法が無償提供された場合でさえ、性感染症は増えず、複数の性的パートナー男性がいる女性の数もむしろ減少した、という2014年のアメリカの研究結果がある。14〜45歳女性9256人(6割が25歳未満)を対象とした2~3年にわたる調査で、開始1カ月の時点で複数の男性パートナーがいると答えた被験者は5.2%にとどまり、しかも1年後までには3.3%に減少していた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、牛肉輸入にセーフガード設定 国内産業保護狙い

ワールド

米欧ウクライナ、戦争終結に向けた対応協議 ゼレンス

ワールド

プーチン氏、ウクライナでの「勝利信じる」 新年演説

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.6万件減の19.9万件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 5
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中