最新記事

日本社会

アフターピル市販で「性が乱れる」と叫ぶ人の勘違い 日本の医療、年配男性の「有識者」が決めている

2020年10月25日(日)12時36分
久住 英二(ナビタスクリニック内科医師) *東洋経済オンラインからの転載

なお、7月末に示された「第5次男女共同参画基本計画策定にあたっての基本的な考え方(素案)」の時点では、「緊急避妊薬」の文字はまだなかった。それからすれば、まさに急展開ではある。当初「来年にもOTC化へ」と聞いた際には、政権交代で利害関係などのしがらみが一気に片付いたのか、とも思った。実際には、そこまでは望めなかったようだが......。

以下、アフターピルをめぐるこれまでの議論を振り返り、根本的な問題を明らかにしていきたい。

オンライン診療さえ難色示す"有識者"たち

当院では2018年からアフターピルのオンライン診療・処方を行っている。きっかけの1つは、2017年に厚労省検討会でOTC化が見送られたことだ。「時期尚早」というのがその理由だった。再び議論が盛り上がるには相当の年月がかかるだろう、それまで現行の仕組みの中でできる‟次善策"を、と踏み切ったのが、オンライン診療・処方だった。

以来、多くの女性たちから感謝の言葉をいただいてきた一方、世の中にはオンライン診療を歓迎する人ばかりではなかった。「対面診療は必須」という主張である。

「初診は原則として直接の対面診療による」とした1997年の厚生省(当時)通知が、その主張を後押ししてきた。2018年3月に示された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」でも、その"原則"は維持された。ただし、これら「通知」や「指針」に法的拘束力はない。

その後、指針の見直しに関する検討会は、一定条件の下にアフターピルを「オンライン診療の初診対面診療原則の例外」として認めると了承。しかし、その条件は「3週間後の産婦人科受診の約束を取り付ける」「薬局で薬剤師の前で内服する」といった、女性側の事情を考慮しないものだった。

実際、2019年7月の改訂でその2点が指針に明示された。繰り返すが、法的に意味はなく、この通りでなくても受診者に不利益が生じることは一切ない。

そんななか、アフターピルのOTC化と僅差で報じられたのが、初診からのオンライン診療を全面解禁する、という厚労省方針だ。新型コロナ対策としてこの4月から"特例"として時限的に認めていたのを、恒久化するという。

そうなれば、アフターピルを"例外"としてきた大前提がひっくり返る。あるいはOTC化が実現すれば、アフターピルに関してはオンライン診療・処方自体、その役割を終える。世界を見渡せばいずれも既定路線だが、果たしてどうなるか。検討会の動きを注視していきたい。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EUのガソリン車販売禁止撤回、業界の反応分かれる

ワールド

米、EUサービス企業への対抗措置警告 X制裁金受け

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中