最新記事

インタビュー

美学者が東工大生に「偶然の価値」を伝える理由──伊藤亜紗の「いわく言い難いもの」を言葉にしていくプロセスとは

2020年8月28日(金)16時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

──それぞれ異なる世界にいる者同士が、互いに共通する表現を探しながら、言葉にされてこなかったものを見いだしていく作業ですね。

伊藤:ある意味無茶ぶりインタビューですよね。天ぷら定食とフォルダの話も、理解するのに50分はかかったと思います。

無意識の行為を言語化するのは本当に難しい作業です。「どうやって想像してますか?」と聞いただけでは「いや....想像してません」で終わってしまいますから。でも、その人ならではの何か、は必ずある。時間をかけて、しつこく探り当てていきます。

そのくらいまでやらないと、相手も、わたしの期待に沿った答えを用意してしまうかもしれない。ありがたいのですが、わたしはその人が意識的に語れることを聞きたいわけではありませんから。 

その人が問われて初めて、「それ、考えてもみなかったな」というところから一緒に言葉を探していくという作業がやっぱり面白いし、そこには「本当」がある感じがします。

Torus_Ito2.jpg

──天ぷら定食の話を聞いて、以前本で書かれていた、人とのかかわりあい方についての「情報ベース」と「意味ベース」の対比を思い出しました。

伊藤:「視力」で説明すると、数値化された「0.01の視力」は「情報」です。でも、同じ0.01の視力でも、一人ひとり「意味」が違うわけです。

ここでいう「意味」は、その人の「体験」と言い換えると分かりやすいかもしれません。同じ0.01でも、全体が黄色っぽく見える0.01や、天気によって見え方が違う0.01もあるでしょう。単純に視野が狭いというのもあるだろうし。数字にしてしまうと同じなんですが、実際はそれぞれ異なる体験をしている。

「情報」は対象をコントロールしやすくなりますし、科学は基本「情報」をもとに探究していきます。でも、そもそも「身体」というもの自体、人間がコントロールしきれないものですよね。そういう意味で、様々な人たちから身体の話を聞くことは、自然を見ている感じがするんですよね。空を見上げて雲が流れゆくのを淡々と眺めるように、身体に何が起こるかを淡々と見ていく。

そこに評価を与えた瞬間に、人間の側に引きつけてしまう感じがするので。

特に障害の問題は「可哀想」「支援しなきゃ」という思いが、つい最初に来てしまうことがある。そうした感情より、まずはニュートラルに見ようとしたほうが、相手も自分もラクですし、お互いの「違い」に、興味をもって関われる感じがします。


情報ベースでつきあう限り、見えない人は見える人に対して、どうしたって劣位に立たされてしまいます。そこに生まれるのは、健常者が障害者に教え、助けるというサポートの関係です。福祉的な態度とは、「サポートしなければいけない」という緊張感であり、それがまさに見える人と見えない人の関係を「しばる」のです。もちろんサポートの関係は必要ですが、福祉的な態度だけでは、「与える側」と「受けとる側」という固定された上下関係から出ることができない。それではあまりにもったいないです。(中略)

ここに「意味」ベースの関わりの重要性があります。(中略)意味に関して、見える人と見えない人のあいだに差異はあっても優劣はありません。(中略)見えないからこその意味の生まれ方があるし、ときには見えないという不自由さを逆手にとるような痛快な意味に出会うこともあります。そして、その意味は、見える/見えないに関係なく、言葉でシェアすることができます。そこに生まれるのは、対等で、かつ差異を面白がる世界です。 (『目の見えない人は世界をどう見ているのか』序章「うちはうち、よそはよそ」という距離感 から抜粋)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、トランプ氏の風力発電批判に反論 グリーン化推

ビジネス

英ビーズリー、チューリッヒ保険の買収提案拒否 「著

ワールド

NATO、北極圏の防衛強化へ トランプ氏との合意受

ビジネス

英公的部門借入額、12月は予想下回る リーブス財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 4
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 8
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 9
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 10
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 10
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中