「いかに情報を減らすか」Apple Watchの斬新なコンセプト(ITジャーナリスト林信行と振り返る:後編)
健康面までサポートする、ウェアラブルデバイスの可能性。
身に着けることで、常に身体の状態をログしてくれる。
ファッション性と並んでApple Watchの成功要因となったのは、ヘルス系のサポート機能であることは言うまでもない。私がTwitterでこの機能に関連したツイートをすると、「ヨガには欠かせないアイテムです」「呼吸(注:深呼吸を促す機能のこと)大事」といったツイートが6、7件寄せられるほどだ。また、いまではApple Watchと身体データを共有できるトレッドミルなどのトレーニング器具が開発されるほどの広がりを見せている。
実は健康サポート機能の開発にあたり、Appleは社内に秘密のスポーツジムを設置。心拍数や肺活量などを計測するセンサーを着けた複数の社員が、長期間にわたり激しいエクササイズを課されていたという逸話が残っている。
そんな社員の努力のかいもあり搭載された心肺数計測機能は、常にユーザーの心拍数をチェック。いまでは、通常よりも高い(もしくは低い)心拍数を検知するとアラートが表示され、自身の心臓の状態を可視化できるまでに進化している。
<参考記事>ITジャーナリスト・林信行とAppleのノートパソコン史を振り返る。
緊急事態を知らせ、命を救った時計。
2017年には、Podcastのプロデューサーが「Apple Watchにより命が助かった」と報告。当時は心拍数の異常を検知する機能はなかったが、「Heart Watch」という心拍数計測のアプリが異常を検知。病院で検査を受けると、医師から「もう少し遅かったら手遅れだった」と告げられたという。
以降、「私もApple Watchに命を助けられた」という報告が相次ぐようになり、Appleも、SOSボタンを押すと119番など各国の緊急通報番号へダイヤルしてくれる「緊急通報サービス」や、転倒を検知すると無事かを問い合わせ、反応がない場合には自動的に緊急連絡を行う「転倒検出」などの機能を次々に実装した。
またシリーズ4からは、心電を取れる「ECG機能」が搭載(日本では未認可)。万が一の時のセーフティ機能を備えた、これまでの時計はおろかスマートウォッチにもない"命を救う時計"として存在感を発揮している。
Apple Watchは、万が一の時ばかりではなく、日常の健康をサポートする機能も備えている。アメリカNo.1の知名度を誇るフィットネス・インストラクターを社員に迎え、プロデュースさせた「アクティビティ」は、日常生活の中に無理なくエクササイズを取り込むよう促し、「カロリー」は1日の目標消費カロリーをステップアップしていく仕組みだ。そして「スタンド」は、着席状態が長時間続くと「そろそろ立ち上がりましょう」と、軽い運動を促してくれる。
<参考記事>AppleとGoogleがタッグを組んだ"接触確認アプリ"とはなにか、ITジャーナリスト林信行が解説する。
自宅でテレワークを行っている人のなかにも、これらApple Watchの健康サポート機能により、日々のエクササイズの必要性に気づかされた人もいるだろう。また、こうした状況だからこそ、Appleもこれまで以上に「健康」に関する機能に注目するのではないだろうか。それは先頃、AppleとGoogleとで新型コロナウイルス感染者との接触を確認するための追跡ツールを共同開発する旨が発表されたことからも、にわかに感じ取れるのだ。
この状況下にあって、2020年も例年通り9月に新型のApple Watchが発表されるかどうかは、現時点では不透明だ。しかし、それまでには世界全体でコロナ騒動が沈静化し、そして、健康を含めた夢のある新機能を搭載した新型Apple Watchが無事、発表されることを願ってやまない。
談:林 信行 構成:高野智宏
※2020.05.15