最新記事

プロダクツ

「いかに情報を減らすか」Apple Watchの斬新なコンセプト(ITジャーナリスト林信行と振り返る:後編)

2020年7月8日(水)11時35分
林 信行 ※Pen Onlineより転載

誰からのメッセージかを確認し、必要なら簡単な返しをする。Apple Watchは、軽やかな情報のやり取りを広めてスマートフォン(iPhone)依存をなくそうという意図のもとに開発された。

スティーブ・ジョブズ没後に登場した初めてのApple製品である、Apple Watch。前編ではテクノロジーの枠組みを超えてファッション性を打ち出した戦略をとった意外性、新しいデバイスをつくる上でのデザイン性について語ってきた。後編では、「スマホ依存からの脱却」と「ヘルスケア」という、Apple Watchが新たにつくり出した潮流について語っていきたい。

コンセプトとなった、スマートフォン依存からの脱却。

私がデザイン以上に革新的だと感じたのは、Apple Watchが最先端のデジタル機器ながら、スペックや機能ではないところをアピールした点だ。これまでのデジタル機器といえば、CPUの処理速度やメモリ容量などを競うスペック至上主義だったのに対し、Apple Watchのコンセプトはまったく異なっていたのだ。

そのコンセプトとは「いかにしてiPhoneに触れる時間を軽減するか」ということ。世界中で「スマホ依存症」が叫ばれていた当時、iPhoneによりスマートフォン文化を開拓したAppleが、その戦犯的な存在としてメディアから叩かれていたことも、コンセプト立案のきっかけになったことは想像に難しくない。

<参考記事>ITジャーナリスト林信行は、新iPad ProにAppleの"先取の精神"を見た。

pen202006150619135702.jpg

腕を長時間上げ続けるのは体勢的にも辛い。Apple Watchでの情報の確認や入力は、ともかく短時間で完了することを重視。「グランス("チラっと見る"の意味)」と呼ばれる一画面完結の簡易操作が基本になっている。現在のApple Watchでは、通知機能やアプリそのものが、5年前のグランスに近いかたちへと進化している。

iPhoneをはじめとするスマートフォンへ手をのばすきっかけといえば、電話やメールの着信がその大半だろう。静まり返った会議室にスマホからの着信音が鳴り響き、あわてて鞄の中を漁った記憶は誰にもあるのではないか。しかし、その通知が手首に届けばどうか。電話の着信にもあわてずワンタッチで留守電に切り替わり、メールも最初の数行が表示されるため、スマートフォンを取り出し急ぎのメールかどうかを確認する必要がない。ユーザーに必要以上の焦りを感じさせず、必要最低限の情報をクールにお知らせしてくれるため、情報への執着を生まないのだ。

スマホをそのまま手首に着けるような発想だったそれまでのスマートウォッチに対し、Apple Watchが担った役割は、ユーザーとiPhoneとの間にワンクッションを置き距離感を遠ざけるということ。Apple Watchの着用により情報を増やすのではなく、いかにして減らすかというコンセプトが斬新だったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中