最新記事

認知症予防

年代別:認知症のリスクを減らすために注意すべき危険因子

HOW TO REDUCE YOUR RISKS OF DEMENTIA

2020年4月1日(水)14時30分
ニコル・アンダーソン(トロント大学心理学部教授、ベイクレスト老人医療センター付属ロットマン研究所研究員)

mookTandP_P48_2.jpg

KALI9/ISTOCKPHOTO

多くの研究はまた、幼少期の社会経済的要因や学業成績と、認知症リスクとの関連を指摘している。例えば、幼児期における社会経済的地位の低さは、人生後期の記憶力低下に関連しているとされる。教育を受ける年数が1年増えると、認知症リスクが7%低下すると結論付けたメタ分析もある。

多くの場合、社会経済的地位の低さに付随する栄養不良は、高血圧、高コレステロール、糖尿病といった心血管系・代謝系の疾患につながる場合があり、これらの病気は認知症のリスクを高める。

そして教育レベルの低さは、知的刺激に満ちた職業や余暇活動に従事する機会を得にくくする。これらの活動には、神経回路の複雑さと回復力を強化する効果がある。

中年期はよく働きよく遊べ

社会的または認知能力的に複雑な職業に従事する人は、人生後期における認知機能がより高く、認知症のリスクが低いことを示す研究がある。同様に、中年期に読書やゲームといった認知能力を刺激する活動に従事することで、認知症リスクを26%程度減らすことができる。

中年期の適度または活発な身体活動も、認知症リスクを減らすことができる。運動が身体の健康にいいことは、私たちは誰もが知っている。

有酸素運動(エアロビクス)は、健康的な体重の維持と血圧を低く抑えるのに効果があるだけでなく、新しい神経細胞の成長を促す効果もある。新しい記憶の形成を主につかさどる脳の部位・海馬では特にそうだ。

「絆」の維持と適切な食生活

社会経済的要因の影響や、認知的・身体的活動の有無は、人生後期になっても重要な認知症の危険因子であり続ける。加えて人生の晩年には、孤独と社会的支援の欠如が新たな危険因子として浮上する。

アルツハイマー病の遺伝的リスクを持つ高齢者は、他の誰かと同居している場合は認知機能の低下を経験する可能性が低く、孤独を感じる割合も低く、社会的支援を得ていることを実感できる。

人間は食べたものでできていると言われるが、食事は認知症の危険因子としても重要であることが分かっている。未精製の穀物、果物、野菜、豆類、オリーブ油、魚をしっかりと摂取し、肉の消費を抑える──いわゆる地中海スタイルの食生活だが、これは認知症の発症率低下と関連があるとされている。

私はベイクレストの同僚たちと共に、こうした学術的証拠に基づき50歳以上を対象とした「脳の健康食品ガイド」を作成した。

私がこのような情報を発表するたびに、決まって誰かがこう言う。「でも、うちの母はその手のことを全部やったのに、認知症になった」。また、「ロナルド・レーガン(元米大統領。退任後、アルツハイマー病であることを公表した)はどうだったの?」と聞く人もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中