最新記事
日本文化

漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」

2024年9月26日(木)17時00分
小暮聡子、澤田知洋(本誌記者)
時事

時事通信社にてインタビューに応じる境社長 TOMOHIRO SAWADAーNEWSWEEK JAPAN

<日本人は伝統文化を知らなすぎる...価値に気付く仕掛けが必要だと、「日本伝統文化検定」を立ち上げた時事通信社社長の境克彦は語る>

日本の伝統文化は瀕死の状況だ。今年は、1月の能登半島地震で石川県の輪島塗が存亡の危機に陥った。特に過疎高齢化が進む地方では、人がいなくなれば地域の伝統文化そのものが消滅してしまう。

伝統的工芸品産業振興協会によると、2020年度に伝統的工芸品の生産に携わる従業員数は5万4000人で、1980年ごろと比べて8割強減っている。代替できない技術を持ち継承し得る人が、既に5万4000人しかいない。

そんななか昨年末、時事通信社が中心となって「日本伝統文化検定(伝検)協会」を立ち上げた。9月20日には、11月29日~来年1月31日に開催される第1回検定の申し込み受付を開始している。


なぜ今、報道機関である時事通信社が日本の伝統文化の、しかも検定事業を始めたのか。伝検協会理事長で時事通信社社長の境克彦に話を聞くと、語られたのは海外から見た日本の伝統文化の価値と、それに気づかないまま失い続ける日本への危機感だった。(聞き手は本誌記者・小暮聡子、澤田知洋)

――伝検を立ち上げた経緯は。

伝検協会の発起人にも名前を連ねているメイド・イン・ジャパン・プロジェクト社という、帝国ホテルや六本木の東京ミッドタウンに工芸ショップを出している会社の方から、日本の伝統工芸が置かれている状況がいかに悲惨であるかを聞いた。

国も自治体もずいぶん前から産地支援や後継者の育成に補助金をたくさん出してきたのだが、全くらちがあかないと。担い手や作り手の支援だけではもう持たないなか、存続するには、伝統工芸について多くの人に知ってもらうしか道はないという話になった。

伝統工芸品は値段も高い。だがそれは、その対価に見合う価値を理解できていないから高いと思うだけで、どういう工程を経て出来たかが分かればむしろ安く感じることもあるだろう。まずは知ってもらうために、検定を作って日本文化について勉強するのはどうかという趣旨で始まった。

――伝統文化はなぜ今、ここまで危機に陥っているのか。

工芸の世界には過去に大きな危機が2回あった。1つは明治維新で、工芸の最大のパトロンであった武士階級が消滅し、日本刀の技術は金工の最高峰だったにもかかわらず、特に刀剣類が行き場を失った。

江戸時代に金工に携わっていた人たちは、明治期には鍋や釜や包丁などの民生品に舵を切ったわけだ。明治時代には、外国からも日本の工芸品の水準の高さが認められて、万博で激賞されることもあった。

しかし戦後に、次の大きな危機がやって来る。高度成長と生活の洋風化、それに家族関係の希薄化だ。核家族化が進んだ結果、古い物が子供たちに伝わらなくなったのだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中