最新記事
演劇

新設4年で全47都道府県から学生集結 観光と芸術の融合目指す平田オリザの挑戦

2024年7月1日(月)09時38分
柾木博行(本誌記者)

平田オリザの中・高生向けの演劇ワークショップ

豊岡市民プラザでの中高生向けワークショップ(写真提供:豊岡市民プラザ)

演劇を用いたコミュニケーション教育

──大学だけではなく、豊岡では小中高で、演劇を用いたコミュニケーション教育をやっていますが、あれはどのくらい平田さんご自身が出向いてやっているんでしょうか?

どこの自治体でもそうですけど、僕が最初にやってみせます。そのあとは自治体ごとに課題が違うので、同じことをやるわけじゃなくて、豊岡の場合には、小6と中1はもう全部先生がやっていて、その指導を僕がする。時々モデル授業で自分もやりますけど、小1、小2には逆に働き方改革の意味もあって、うちの劇団員が教えています。

反対に全部僕がやっている自治体もあるし、全部劇団員がやっている自治体もあります。いずれにしても、僕がまず入っていって、制度設計を教育委員会と考えながら、どこも最終的に全校実施に向けてやっています。

──最初はもうとにかく平田さんが赴いて。

そうですね。説明もしなきゃいけないので。それも色々教育委員会と話して、教育長がちゃんとやる気があるってことが前提なんですけど、その上で戦略的に、じゃあ先にPTA向けに僕の講演会しましょうとか、先生対象のワークショップから入りましょうとか。1つとして同じやり方をしてる自治体はないです。全部オーダーメイドで地道にちょっとずつ増えていっている。

──そこに、これまで地道に継続してきた手法のストックが生きている。

ルーブリック*って言うんですけど、豊岡ではがっつり、どういう風に展開していくかすごく細かい指導案まであります。他の教科への波及の仕方まで組み込んでいる。大体どの自治体も視察に来てそれを見ると、多くの先生が「これやりたいです」って言いますね。教育指導要領に合った形で指導案を作って、学校に入れやすい形になっているので。

どうしても芸術家主導だと、そこが難しいんです。定着させたり全校実施するためには、ある程度先生方が受け入れやすかったり、他の教科と横展開しやすかったりする必要があるんです。

次の段階としては、うちは兵庫教育大学と組んで、もうちょっと先の、演劇という授業になった場合に、どういう教科書で、通年でどういう授業をやっていくかみたいなことも今研究しています。

*学習目標の達成度を判断するための評価ツール

──じゃあ大学のほうで小中高のいろんなプログラムの研究を。

そうですね。やっぱり大学で研究費が取れると、例えば韓国とかの先進事例を視察に行ったりすることも研究としてできる。そこに兵庫教育大学の教育学の先生に入ってもらうと、より教育学の世界で通じる用語とかがあるわけです。そういうタームもしっかり取り入れて、文科省の方とかにも入ってもらってやると、どんどん使いやすいものになっていく。

──教育の分野ではUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と高校向けに演劇を用いたコミュニケーションワークショップを開発するそうですが。

たまたまUNHCRの広報担当の方が僕と同じ国際基督教大学の出身で、ご依頼が来てやりましょうと。芸術文化観光専門職大学と組んで、僕がこれまで作ってきた演劇教育の教材を僕が書き換えて映像教材にします。高校の探究型の授業で、2コマか3コマを使って、映像を見てそれについてディスカッションするみたいな、さっき言った指導案と映像をセットにして、今作っているところです。

ヨーロッパと比べて、日本では難民という存在が予想以上に知られていません。身近にはいないですからね。だから、難民についてとにかく理解してもらうっていうのが、今のUNHCR駐日事務所の一番の目標。ただ、その前に「他者理解」ですね。それをワークショップを通じて浸透させていく。どの学校も、探求型の授業とか総合的な学習の時間に何をやるかで先生方は困ってるので、そういういい教材があれば、使ってもらえると思うんです。


newsweekjp_20240630095704.png平田オリザ(ひらたおりざ) 1962年東京生まれ。劇作家・演出家・青年団主宰。芸術文化観光専門職大学学長。江原河畔劇場 芸術総監督。豊岡演劇祭フェスティバル・ディレクター。国際基督教大学教養学部卒業。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中