新設4年で全47都道府県から学生集結 観光と芸術の融合目指す平田オリザの挑戦
演劇を用いたコミュニケーション教育
──大学だけではなく、豊岡では小中高で、演劇を用いたコミュニケーション教育をやっていますが、あれはどのくらい平田さんご自身が出向いてやっているんでしょうか?
どこの自治体でもそうですけど、僕が最初にやってみせます。そのあとは自治体ごとに課題が違うので、同じことをやるわけじゃなくて、豊岡の場合には、小6と中1はもう全部先生がやっていて、その指導を僕がする。時々モデル授業で自分もやりますけど、小1、小2には逆に働き方改革の意味もあって、うちの劇団員が教えています。
反対に全部僕がやっている自治体もあるし、全部劇団員がやっている自治体もあります。いずれにしても、僕がまず入っていって、制度設計を教育委員会と考えながら、どこも最終的に全校実施に向けてやっています。
──最初はもうとにかく平田さんが赴いて。
そうですね。説明もしなきゃいけないので。それも色々教育委員会と話して、教育長がちゃんとやる気があるってことが前提なんですけど、その上で戦略的に、じゃあ先にPTA向けに僕の講演会しましょうとか、先生対象のワークショップから入りましょうとか。1つとして同じやり方をしてる自治体はないです。全部オーダーメイドで地道にちょっとずつ増えていっている。
──そこに、これまで地道に継続してきた手法のストックが生きている。
ルーブリック*って言うんですけど、豊岡ではがっつり、どういう風に展開していくかすごく細かい指導案まであります。他の教科への波及の仕方まで組み込んでいる。大体どの自治体も視察に来てそれを見ると、多くの先生が「これやりたいです」って言いますね。教育指導要領に合った形で指導案を作って、学校に入れやすい形になっているので。
どうしても芸術家主導だと、そこが難しいんです。定着させたり全校実施するためには、ある程度先生方が受け入れやすかったり、他の教科と横展開しやすかったりする必要があるんです。
次の段階としては、うちは兵庫教育大学と組んで、もうちょっと先の、演劇という授業になった場合に、どういう教科書で、通年でどういう授業をやっていくかみたいなことも今研究しています。
*学習目標の達成度を判断するための評価ツール
──じゃあ大学のほうで小中高のいろんなプログラムの研究を。
そうですね。やっぱり大学で研究費が取れると、例えば韓国とかの先進事例を視察に行ったりすることも研究としてできる。そこに兵庫教育大学の教育学の先生に入ってもらうと、より教育学の世界で通じる用語とかがあるわけです。そういうタームもしっかり取り入れて、文科省の方とかにも入ってもらってやると、どんどん使いやすいものになっていく。
──教育の分野ではUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と高校向けに演劇を用いたコミュニケーションワークショップを開発するそうですが。
たまたまUNHCRの広報担当の方が僕と同じ国際基督教大学の出身で、ご依頼が来てやりましょうと。芸術文化観光専門職大学と組んで、僕がこれまで作ってきた演劇教育の教材を僕が書き換えて映像教材にします。高校の探究型の授業で、2コマか3コマを使って、映像を見てそれについてディスカッションするみたいな、さっき言った指導案と映像をセットにして、今作っているところです。
ヨーロッパと比べて、日本では難民という存在が予想以上に知られていません。身近にはいないですからね。だから、難民についてとにかく理解してもらうっていうのが、今のUNHCR駐日事務所の一番の目標。ただ、その前に「他者理解」ですね。それをワークショップを通じて浸透させていく。どの学校も、探求型の授業とか総合的な学習の時間に何をやるかで先生方は困ってるので、そういういい教材があれば、使ってもらえると思うんです。
平田オリザ(ひらたおりざ) 1962年東京生まれ。劇作家・演出家・青年団主宰。芸術文化観光専門職大学学長。江原河畔劇場 芸術総監督。豊岡演劇祭フェスティバル・ディレクター。国際基督教大学教養学部卒業。1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲賞受賞、1998年『月の岬』で第5回読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞受賞。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2002年『芸術立国論』(集英社新書)で、AICT評論家賞受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回朝日舞台芸術賞グランプリ受賞。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス文化通信省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞。