最新記事
演劇

新設4年で全47都道府県から学生集結 観光と芸術の融合目指す平田オリザの挑戦

2024年7月1日(月)09時38分
柾木博行(本誌記者)

芸術文化観光専門職大学での授業風景

芸術文化観光専門職大学の学長を務める平田は自ら授業を受けもつこともある

この成功を海外にも展開したい

──観光の人材というと、ツアーコンダクターをイメージしがちですけど、そうではない?

観光業界の方たちに説明しているのは、専門学校ではなく大学なので、フロントマンではなくてコンシェルジュを育成するんだと。コンシェルジュっていうのは、世界中からお客様が来たときに、そのお客様に合わせていろんなツアーとかリコメンドしなきゃいけない。だから文化人類学とか歴史学とか自然科学とか、いろんな知識をもってないとダメなんですよね。感性も必要です。お客様が家族連れなのか恋人なのかによって、それに合った旅行先を推薦していく。

一方で、ニューヨークとかロンドンの一流ホテルのコンシェルジュって、電話1本でブロードウェイやウエストエンドのチケットを押さえてくれるんです。そういうネットワークがあるし、自分自身もちゃんと主要なミュージカルとかオペラとか展覧会とか見に行ってるわけですよ、初日から数日のうちに。だってそうじゃなきゃ、推薦できないじゃないですか。それで、帰ってきたお客様とまた感想を語り合ったりするっていうのがコンシェルジュなんです。そういう人たちを作る。観光分野で言えばね。

あと、観光は本当に偶然ですけど、2009年の政権交代時に、僕、内閣官房参与もしていたんですけど、当時の国交大臣の前原誠司さんから頼まれて、国交省の成長戦略会議の観光部会の座長をしたんです。

最初のインバウンド2000万人計画とか、僕が立てたんですよ。そういう役職に就くと、役人から三日三晩くらいものすごいブリーフィングを受けるんです。役人は自分のやりたいことを通したいから。そこで当時すごい勉強したのが、まさかこんなところで役立つとは思ってなかった。まぁ、与えられた仕事はちゃんと全力でやるんですよ、いつも(笑)。

──今まで平田さんが他の大学でやってきたことと全く違う気もします。

観光の部分はそうなんですけど、でも 2000年に桜美林大学で演劇・ダンス専修を作ったときも、日本で最初のリベラルアーツ(一般教養)における演劇教育をやりますって言って、最初は誰もが「なんのこっちゃ」って感じでしたよ。それが蓋を開けたらたくさん学生が来たわけじゃないですか。大阪大学では大学院の高度教養教育に演劇を入れる試み、四国学院大学では中四国地区初の演劇コースの開設。いつも初めてのことをしているので、これまでと違うのは当然です。そして、そのたびに周囲の理解が追いつかない。

芸術文化観光専門職大学でいえば、今どき演劇やダンスをやりたいって子供が言って、頭ごなしに反対する親はもうあまりいないんです。やっぱり引きこもりとかになられるよりは絶対そっちのほうがいいわけですよ。ただ、就職も心配で、本学の場合には公共ホールとか観光とかで就職先は鉄板であるので、その部分が保護者とか演劇部の顧問の先生から信頼を得て、この高倍率になっているってことですね。

今、大学で新しい学部ってほとんど情報系なんですよ。いま、欲しい人材の育成ばかりを考える。でもね教育学の世界では「Connecting the dots」って言うんですけど、情報と情報をつないで物語を作っていくような能力だけが、これからの人類として多分最後の領域で、それだったら100年後はわかんないけど、30年、50年は持つんです。

だけど結局、大学に新しい学部を作ろうとすると、多くの場合、その学部を作るのは既成の教授陣なんです。時々、外から来た人がすごく斬新なことをやろうとするんだけど、その人たちは大学の仕組みがわかっていない。だから、その両方をわかってる人じゃないと、こういう大学はできない。大学にない新しい発想と、大学の仕組みの理解っていうのが、たまたま揃ったってことです。

──倍率も高くてうまくいって、ロールモデルにしようっていう他の県からの視察も多いのでは?

視察は来ますね。視察は来るけど、結局首長さんとか県知事がよほどの覚悟をしないと、こういう革新的なことはできない。

この間も韓国から視察に来たんですけど、「これはぜったい韓国ではあり得ない奇跡だ。こんな人口7万5000人の町に新しい大学作って、こんなに学生が来るなんてあり得ない」って言ってて。韓国はもうソウルの大学じゃないと就職もできない状況ですから。だからいずれ、韓国とかにビジネスモデルを展開するところまで行ければいいですね。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

香港、成功報酬の非課税拡大へ 資産運用の競争力強化

ワールド

生鮮食品と特殊要因除くCPI、2月は前年比2.2%

ビジネス

上海の合成ゴム先物が過去最高値、イラン戦争で原料供

ワールド

アングル:米スペースX株、IPO控え不透明な取引拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中