最新記事
映画

「あなたの人生に限界はない...」難病ALS患者が貫く「とにかく挑戦をやめない」姿勢──ドキュメンタリー『NO LIMIT, YOUR LIFE』

Life Has No Limits

2023年6月30日(金)14時00分
大橋 希(本誌記者)
武藤将胤

武藤はALS患者の未来を明るくするアイデアを形にしたいと考えている ©2023テレビ朝日・フレックス

<難病と闘うクリエーターの武藤将胤が『NO LIMIT, YOUR LIFE』で伝える勇気と希望>

「昨日までできたことが今日できなくなるのでは、という恐怖と毎日闘っています」

そう話す武藤将胤(まさたね、36)がつらいときに思い起こすのは、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患いながら研究生活を全うした宇宙物理学者スティーブン・ホーキングの「できることに集中し、できないことを悔やまない」という言葉だ。

ドキュメンタリー映画『NO LIMIT, YOUR LIFE ノー リミット,ユア ライフ』の中の武藤は、まさにこの言葉どおりの生き方を見せる(今回の取材に彼は文書と、目の動きを使った視線入力で答えてくれた)。

【動画】ドキュメンタリー『NO LIMIT, YOUR LIFE』予告編

彼は2014年、27歳の時にALSと診断された。「社会を明るくするアイデアを形に」をモットーに、大手広告会社でプランナーとして忙しい日々を送っていた頃だ。

意識や感覚はそのままで次第に体が動かせなくなるALSは、患者の9割が遺伝とは無関係で原因不明。根本的な治療法はない。発症を知ったときは「なぜ自分なのか、と頭が真っ白になった」。でも今は、ALSに打ち克(か)つ方法を考え、社会に発信することが使命と考えるようになった。

呼吸器を付ける選択

映画には元気だった頃から少しずつ症状が進んで介護を受ける姿まで、彼が何を考え、病とどう向き合ってきたかが克明に記録されている。

「あらゆる撮影をOKにした」ため、見られたくないはずの場面も登場するし、観客は彼の痛みや苦しみも目の当たりにする。それでもやはりこの作品には、彼がよく口にする「未来」「希望」「勇気」といった言葉がふさわしい。

とにかく武藤は挑戦をやめない。ALSの課題解決に取り組む団体WITH ALSの代表を務め、重い障害のある人を支える訪問介護事業所を設立し、障害のある人もない人も着られる服のブランドを立ち上げ、視線入力でDJやVJ(ビデオジョッキー)として活動し、「脳波」で意思を伝える機器や音声合成や分身ロボットなどさまざまなテクノロジーの研究開発に取り組む......というように、ALSへの理解を広げ、患者を支えるために走り続けている。

ALSの場合、大きな決断の1つに人工呼吸器を付けるのかがある。武藤もこれに悩み、最終的に装着を選択する。

人工呼吸器を付けなければ平均余命は3~5年程度。一方、呼吸器を付ければ気管切開で声を失う可能性があり、介護者の負担も増える。単なる延命手段と捉えられるのが現実だ。「だから、世界では9割の患者が呼吸器を付けない選択をしている。でも僕は(呼吸器を付けて)生きるという選択をもっとポジティブなものに変えていきたい」

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中