最新記事
韓国社会

BTSメンバーの入隊を「最強兵器」に使っても、韓国軍が抱える問題は変わらない

POP STARS AS WEAPONS

2023年4月5日(水)12時48分
サイラス・ジン

230411p42_BTS_04.jpg

人気絶頂期に米軍に入隊したプレスリーは、軍と自分のイメージアップに成功(58年) APIC/GETTY IMAGES

「徴兵逃れ」への厳しい視線

マネジャーの根回しのかいあって、また本人の意思もあり、プレスリーは宣伝やコンサートなどの快適な任務に就くのではなく、「一般の」兵士として入隊した。ポマードが光るオールバックは、すっきりとした角刈りになった。

兵役に就くまで、プレスリーは「おおらかな反逆者」として映画にも出演していた。彼は若者の不服従の象徴であると同時に、保守派の批判の的でもあった。しかし、2年間の軍隊生活を経て(その大半をドイツで過ごした)、「道徳的に真っすぐな若い兵士」の風貌になっていた。

鋭い魅力はいささか丸くなったかもしれないが、軍のイメージを体現するキャラクターになったことは互いにメリットがあった。

陸軍は評判が高まり、プレスリーは『G・I・ブルース』などの映画でメインストリームのスターとして再出発を果たしたのだ。この映画には、兵役は楽しくて人間的な変化を経験できるという軽快な愛国のメッセージが込められていた。

一方、BTSは既に世界規模のメインストリームで成功を収めており、比較的健全なボーイズバンドであることから、プレスリーのときのような論争は起きなかった。しかし、韓国人男性として兵役義務を果たさないことで、全国的な批判の矢面に立たされかねない。

韓国の徴兵制に対する長年の批判の1つは、社会のさまざまな領域で生じている不公平だ。裕福な男性には兵役を免れる手段がある。一部の有名人は徴兵を免除されたり、兵役中に贅沢な待遇を受けたりして、大きな批判にさらされてきた。

有名人の徴兵逃れは、不公平な制度に反対するための行為とは見なされない。BTSのメンバーが忠実に兵役を果たさなければ、立場とリソースを利用して国民の義務を回避していると見なされたかもしれない。

JINは58年のプレスリーのように、韓国の国家安全保障体制が問われる時期に入隊した。

2014年に約70億ドルを投じて最新鋭ステルス戦闘機F35の調達を発表するなど、韓国政府は最先端の軍備に投資する一方で、下級兵士の劣悪な待遇は長年放置してきた。兵士たちは極端な低賃金と、質の低い食事、不適切な医療、そして老朽化した装備に苦しめられてきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中