テロ犠牲者の「命の値段を査定」...全米の嫌われ者を描く『ワース』が傑作になれた特殊事情
How Much Is a Life Worth?
機が熟すには10年ほどかかった。ようやく完成した作品を披露できたのは20年1月のサンダンス映画祭。あの忌まわしいテロの20周年に、どうにか間に合った。
ファインバーグ役の主演にはマイケル・キートンしかいないと、ボレンスタインは思っていた。しかしファインバーグは天下の嫌われ者だ。さすがのキートンも、最初はためらったらしい。それでも本人に引き合わせると、すぐに意気投合したという。
「マイケルとケンは理解し合った。そして彼を揶揄するのではなく、そのキャラクターを描き出すという素敵な方向に進んだ。実際のケンも素敵な人物だ」と、ボレンスタインは言う。結果として、キートンも「ファインバーグという人物の本質を把握し、表面をなぞるだけでなく、彼の心の底まで掘り下げてくれた」。
共演のスタンリー・トゥッチは、補償基金の査定方式に怒る遺族のチャールズ・ウルフを熱演している。「トゥッチはあの役になりきり、私が何年も前に書いたせりふを実際に口にしてくれた。感動したよ。すごい役者だ」
本物の遺族たちが語った悲劇
本作では、9.11テロで身内を亡くして悲嘆に暮れる遺族をたくさんの役者が演じている。みんな、つらかったに違いない。だが、なかには役者でない人もいる。
ファインバーグの著書には多くの遺族のリアルな証言が収録されていて、ボレンスタインはその一部に取材し、その映像を作品に組み入れた。
「関係者を傷つけず、センセーショナルに扱わず、自然な形でストーリーに溶け込ませる。それが大事だった。たくさんの悲劇を羅列するだけでなく、そこに関わった人たちの苦悩を描くこと。それが私の思いだったから」
本作では、遺族や、どうにか生き延びた人たちが真摯に語っている。可能な限り忠実に脚色した部分もあるが、全て本人の許諾を得ている、とボレンスタインは言う。
「この映画で告白や証言をしている人の一部は本物の遺族、愛する人を本当に失った人たちだ。みんな、これだけは言わせてくれって感じだった」
普通なら触れられたくない私生活が語られることも、都合の悪い真実が明かされる場面もある。しかしボレンスタインは、それも物語の重要な要素だと考えた。
「あれだけの悲劇が起きたんだ。死んだ人を殉教者に仕立て、残された人は単なる被害者だなんて、そんな簡単な話では済まされない」と、ボレンスタインは言う。
「遺族として生きるっていうのも、すごく難しい。心に残る傷口は、悲しむだけでは塞がらないから」
WORTH
『ワース 命の値段』
監督╱サラ・コランジェロ
主演╱マイケル・キートン
日本公開は2月23日