最新記事

映画

テロ犠牲者の「命の値段を査定」...全米の嫌われ者を描く『ワース』が傑作になれた特殊事情

How Much Is a Life Worth?

2023年2月23日(木)13時46分
ジェイミー・バートン

230228p52_WOT_01.jpg

犠牲者を悼む当時の掲示板 ©2020 WILW HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

機が熟すには10年ほどかかった。ようやく完成した作品を披露できたのは20年1月のサンダンス映画祭。あの忌まわしいテロの20周年に、どうにか間に合った。

ファインバーグ役の主演にはマイケル・キートンしかいないと、ボレンスタインは思っていた。しかしファインバーグは天下の嫌われ者だ。さすがのキートンも、最初はためらったらしい。それでも本人に引き合わせると、すぐに意気投合したという。

「マイケルとケンは理解し合った。そして彼を揶揄するのではなく、そのキャラクターを描き出すという素敵な方向に進んだ。実際のケンも素敵な人物だ」と、ボレンスタインは言う。結果として、キートンも「ファインバーグという人物の本質を把握し、表面をなぞるだけでなく、彼の心の底まで掘り下げてくれた」。

共演のスタンリー・トゥッチは、補償基金の査定方式に怒る遺族のチャールズ・ウルフを熱演している。「トゥッチはあの役になりきり、私が何年も前に書いたせりふを実際に口にしてくれた。感動したよ。すごい役者だ」

本物の遺族たちが語った悲劇

本作では、9.11テロで身内を亡くして悲嘆に暮れる遺族をたくさんの役者が演じている。みんな、つらかったに違いない。だが、なかには役者でない人もいる。

ファインバーグの著書には多くの遺族のリアルな証言が収録されていて、ボレンスタインはその一部に取材し、その映像を作品に組み入れた。

「関係者を傷つけず、センセーショナルに扱わず、自然な形でストーリーに溶け込ませる。それが大事だった。たくさんの悲劇を羅列するだけでなく、そこに関わった人たちの苦悩を描くこと。それが私の思いだったから」

本作では、遺族や、どうにか生き延びた人たちが真摯に語っている。可能な限り忠実に脚色した部分もあるが、全て本人の許諾を得ている、とボレンスタインは言う。

「この映画で告白や証言をしている人の一部は本物の遺族、愛する人を本当に失った人たちだ。みんな、これだけは言わせてくれって感じだった」

普通なら触れられたくない私生活が語られることも、都合の悪い真実が明かされる場面もある。しかしボレンスタインは、それも物語の重要な要素だと考えた。

「あれだけの悲劇が起きたんだ。死んだ人を殉教者に仕立て、残された人は単なる被害者だなんて、そんな簡単な話では済まされない」と、ボレンスタインは言う。

「遺族として生きるっていうのも、すごく難しい。心に残る傷口は、悲しむだけでは塞がらないから」

WORTH
ワース 命の値段
監督╱サラ・コランジェロ
主演╱マイケル・キートン
日本公開は2月23日

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ経済、26年は国内主導の回復に転換へ=IMK

ワールド

豪首相、ヘイトスピーチ対策強化を約束 ボンダイビー

ビジネス

仮想通貨交換コインベース、イベント予測や株式取引に

ビジネス

エリオット、加ルルレモン株10億ドル超取得 CEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中