プロテニス選手の「人間味」に迫る...ネットフリックス新作『ブレイクポイント』の強み、そして「大きな欠点」
Missing the True Drama and Glory
世界ランキング6位へと躍進を遂げる27歳のマリア・サッカリ COURTESY OF NETFLIX
<ネットフリックスの新ドキュメンタリーは、エネルギーやセンスを感じるが、大きな欠点もある>
私はもう20年ぐらい、テニスの魅力をアピールしようとしてきたが、いまだにいい方法が見つからない。個々の選手が独自のスタイルと個性を備え、賞金と栄光を目指して常人離れした運動能力と芸術性を披露する個人競技。テニスには、人がスポーツに求める全てがそろっている。
だがアメリカでは、新規のファン獲得に苦労している。基本的なルール、特に得点の計算方法は複雑で説明が難しい。とっつきにくい専門用語も多い。全豪、全仏、ウィンブルドン、全米の4大大会やその他の重要なトーナメントを除き、ほとんどの大会は気軽にテレビで見られない。
選手自身の問題もある。幼い頃からメディア対応のトレーニングを受け、年に何十回も記者会見を行い、礼儀に厳しいスポーツをプレーする選手たちは、歯を食いしばった試合中の表情の裏にある人間味をなかなか見せてくれない。
『ブレイクポイント:ラケットの向こうに』は、こうした壁を打ち破ろうとしたネットフリックスの新ドキュメンタリーだ。2022年シーズンを通じてトッププレーヤーたちに密着し、試合結果の裏にある人間ドラマを描いている。
この作品はプロテニス界の実態を伝えることに成功している部分もあるが、実際のプレーを軽視していると感じることも少なくない。それこそ、テニスの最も劇的で興味深い部分なのに......。
エスクァイア誌とのインタビューによると、制作総指揮のジェームズ・ゲイ・リースとポール・マーティンは、一般の視聴者がほとんど目にすることのないテニスの人間的側面を探求する作品にしたかったようだ。「昨年の全豪オープンでは、おそらく25人ぐらいの選手にインタビューした。その全員から私たちが感じたのは、『なんでこんなことをするのか』ということ。まるで拷問のようだ」
クローズアップがくどい
テニスのプロ選手は、健全な子供時代や若者時代を一切放棄している。彼らはフリーランスとして生活し、自分のチームを支え、賞金とスポンサー契約を頼りに引退後の生活資金をためる。試合は肉体的、精神的に過酷であり、1年間を通じて勝つ大会より負ける大会のほうがずっと多い。
男子はノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダル、ロジャー・フェデラーの3強が20年近く頂点に君臨してきたせいで、複数の世代の選手たちがランキング上位の厚い壁にはね返され続けてきた。選手層が厚く多彩な女子は、トーナメントの序盤戦でも常に敗退の危険と背中合わせだ。