最新記事

スポーツ

プロテニス選手の「人間味」に迫る...ネットフリックス新作『ブレイクポイント』の強み、そして「大きな欠点」

Missing the True Drama and Glory

2023年2月2日(木)14時30分
アイザック・バトラー(劇作家、演出家)
マリア・サッカリ

世界ランキング6位へと躍進を遂げる27歳のマリア・サッカリ COURTESY OF NETFLIX

<ネットフリックスの新ドキュメンタリーは、エネルギーやセンスを感じるが、大きな欠点もある>

私はもう20年ぐらい、テニスの魅力をアピールしようとしてきたが、いまだにいい方法が見つからない。個々の選手が独自のスタイルと個性を備え、賞金と栄光を目指して常人離れした運動能力と芸術性を披露する個人競技。テニスには、人がスポーツに求める全てがそろっている。

だがアメリカでは、新規のファン獲得に苦労している。基本的なルール、特に得点の計算方法は複雑で説明が難しい。とっつきにくい専門用語も多い。全豪、全仏、ウィンブルドン、全米の4大大会やその他の重要なトーナメントを除き、ほとんどの大会は気軽にテレビで見られない。

選手自身の問題もある。幼い頃からメディア対応のトレーニングを受け、年に何十回も記者会見を行い、礼儀に厳しいスポーツをプレーする選手たちは、歯を食いしばった試合中の表情の裏にある人間味をなかなか見せてくれない。

『ブレイクポイント:ラケットの向こうに』は、こうした壁を打ち破ろうとしたネットフリックスの新ドキュメンタリーだ。2022年シーズンを通じてトッププレーヤーたちに密着し、試合結果の裏にある人間ドラマを描いている。

【動画】『ブレイクポイント: ラケットの向こうに』予告編

この作品はプロテニス界の実態を伝えることに成功している部分もあるが、実際のプレーを軽視していると感じることも少なくない。それこそ、テニスの最も劇的で興味深い部分なのに......。

エスクァイア誌とのインタビューによると、制作総指揮のジェームズ・ゲイ・リースとポール・マーティンは、一般の視聴者がほとんど目にすることのないテニスの人間的側面を探求する作品にしたかったようだ。「昨年の全豪オープンでは、おそらく25人ぐらいの選手にインタビューした。その全員から私たちが感じたのは、『なんでこんなことをするのか』ということ。まるで拷問のようだ」

クローズアップがくどい

テニスのプロ選手は、健全な子供時代や若者時代を一切放棄している。彼らはフリーランスとして生活し、自分のチームを支え、賞金とスポンサー契約を頼りに引退後の生活資金をためる。試合は肉体的、精神的に過酷であり、1年間を通じて勝つ大会より負ける大会のほうがずっと多い。

男子はノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダル、ロジャー・フェデラーの3強が20年近く頂点に君臨してきたせいで、複数の世代の選手たちがランキング上位の厚い壁にはね返され続けてきた。選手層が厚く多彩な女子は、トーナメントの序盤戦でも常に敗退の危険と背中合わせだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中