プロテニス選手の「人間味」に迫る...ネットフリックス新作『ブレイクポイント』の強み、そして「大きな欠点」
Missing the True Drama and Glory
これらの試練に選手たちは若さを武器に立ち向かう。『ブレイクポイント』が焦点を当てた選手の最年長は29歳のアイラ・トムリャノビッチ。最年少は22歳のフェリックス・オジェアリアシムだ。
この作品の最大の強みは、ヒューマニズム──選手たちを記号ではなく人間として見ようとする姿勢だ。コート上では病的な自己中心主義者と化すニック・キリオスの変貌。パウラ・バドーサの不安と憂鬱、マリア・サッカリの自滅的な完璧主義。視聴者はそれを数分もあれば理解できる。
コーチやトレーナーへのインタビューは選手たちの日常や、コートの内と外で彼らが戦っている問題への理解を深めてくれる。制作現場責任者のカリ・リアは、無言の瞬間の重要性を理解している。ナダルとの全仏オープン決勝を前にカスパー・ルードがヘッドバンドを着けるシーンは、緊張をほぐすための儀式の意味をどんな言葉よりも雄弁に物語る。
だが実際に試合が始まると、歯車が狂ってしまう。テニスの栄光、その美しさとドラマは、ポイントの奪い合いにある。いかにして優位に立つ対戦相手の足をすくい、打ちのめし、瞬く間に勝ち目のない状態に追い込むか。ポイントのやりとりの中で個々の選手の本質が姿を現す。時には1つのポイントが試合の流れを一変させることもある。
しかし、『ブレイクポイント』で選手たちの戦略的思考プロセスの内側を垣間見られるのは、最初の全5回のエピソードで数度だけ。代わりに劇的な音楽を背景にボールを打つ選手のクローズアップを繰り返し多用する。その姿は荘厳だが、いかにもくどい。
会話は「台本」あり?
この欠点が特に目立つのはエピソード3。BNPパリバ・オープン決勝で、負傷したテイラー・フリッツがさらに負傷を抱えたナダルを番狂わせで破るまでの物語だ。
試合は息詰まるタイブレークの末、紙一重の差で勝負がついた。だが『ブレイクポイント』は両者の攻防をほとんど描かず、フリッツの最後のサーブに焦点を当てるために、それ以前のプレーを切り刻んで台無しにした。
理由の1つは、ゲイ・リースとマーティンがF1レースに密着した『Formula 1:栄光のグランプリ』の成功の再現を狙ったからだろう。確かに前作同様のエネルギーや人間ドラマのセンスは感じるが、作り物っぽさも目につく。