最新記事

スポーツ

プロテニス選手の「人間味」に迫る...ネットフリックス新作『ブレイクポイント』の強み、そして「大きな欠点」

Missing the True Drama and Glory

2023年2月2日(木)14時30分
アイザック・バトラー(劇作家、演出家)

230207p64_BPT_02.jpg

22歳のフェリックス・オジェアリアシムは世界ランキング7位に躍進 COURTESY OF NETFLIX

これらの試練に選手たちは若さを武器に立ち向かう。『ブレイクポイント』が焦点を当てた選手の最年長は29歳のアイラ・トムリャノビッチ。最年少は22歳のフェリックス・オジェアリアシムだ。

この作品の最大の強みは、ヒューマニズム──選手たちを記号ではなく人間として見ようとする姿勢だ。コート上では病的な自己中心主義者と化すニック・キリオスの変貌。パウラ・バドーサの不安と憂鬱、マリア・サッカリの自滅的な完璧主義。視聴者はそれを数分もあれば理解できる。

コーチやトレーナーへのインタビューは選手たちの日常や、コートの内と外で彼らが戦っている問題への理解を深めてくれる。制作現場責任者のカリ・リアは、無言の瞬間の重要性を理解している。ナダルとの全仏オープン決勝を前にカスパー・ルードがヘッドバンドを着けるシーンは、緊張をほぐすための儀式の意味をどんな言葉よりも雄弁に物語る。

だが実際に試合が始まると、歯車が狂ってしまう。テニスの栄光、その美しさとドラマは、ポイントの奪い合いにある。いかにして優位に立つ対戦相手の足をすくい、打ちのめし、瞬く間に勝ち目のない状態に追い込むか。ポイントのやりとりの中で個々の選手の本質が姿を現す。時には1つのポイントが試合の流れを一変させることもある。

しかし、『ブレイクポイント』で選手たちの戦略的思考プロセスの内側を垣間見られるのは、最初の全5回のエピソードで数度だけ。代わりに劇的な音楽を背景にボールを打つ選手のクローズアップを繰り返し多用する。その姿は荘厳だが、いかにもくどい。

会話は「台本」あり?

この欠点が特に目立つのはエピソード3。BNPパリバ・オープン決勝で、負傷したテイラー・フリッツがさらに負傷を抱えたナダルを番狂わせで破るまでの物語だ。

試合は息詰まるタイブレークの末、紙一重の差で勝負がついた。だが『ブレイクポイント』は両者の攻防をほとんど描かず、フリッツの最後のサーブに焦点を当てるために、それ以前のプレーを切り刻んで台無しにした。

理由の1つは、ゲイ・リースとマーティンがF1レースに密着した『Formula 1:栄光のグランプリ』の成功の再現を狙ったからだろう。確かに前作同様のエネルギーや人間ドラマのセンスは感じるが、作り物っぽさも目につく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中