サブカルの域を越え、紅白にも続々登場 今から聴きたい大人におすすめのボカロ曲&歌い手は?
ボカロ文化は、日本の保守層にも無視できないカルチャーとして認知されていきます。15年にはNHK紅白歌合戦で、今日でもボカロ曲を象徴する楽曲として知られる『千本桜』を出場34回のベテラン歌手・小林幸子が熱唱します。
09年前後よりボカロP・ハチとして活躍していた米津玄師は、18年の紅白にシンガーソングライターとして出場しました。歌唱した『Lemon』のミュージックビデオ(MV)は、21年9月にYouTubeでの再生回数が7億回を突破し、「日本人アーティスト史上最高再生回数」を更新し続けています。
ボカロPのAyaseがコンポーザーとして参加する2人組ユニット「YOASOBI」は、20、21年に紅白に出場。22年12月にビルボード・ジャパンが発表した「歴代ストリーミング総再生回数(18年3月から22年12月までの各種の有料音楽配信サービスなどを集計)」では、20年の紅白で歌唱した『夜に駆ける』が8.9億回で1位となりました。
21年に歌い手として初めて紅白に出場した「まふまふ」は、今年6月に単独の歌い手としては初めて東京ドーム公演を成功させました。紅白で歌唱したカンザキイオリ作『命に嫌われている』は22年末現在、YouTubeで1億3000万回再生を突破しています。
30代以上の音楽ファンが定着しない理由
このように躍進を続けるボカロ文化出身者ですが、30代以上の大人の音楽ファン層には、今でも浸透しているとは言い難いものがあります。
理由はいくつか考えられます。まず、人気の出たボカロPや歌い手はシンガーソングライターやプロ歌手としてメジャーデビューをし、ボカロ業界を離れる場合が多いこと。「ネット時代に現れた音楽家への新たな登竜門」という見方もできますが、プロになった後もボカロPや歌い手として、質、量ともに投稿し続ける者は稀です。
次に、特に歌い手の場合は、アマチュアが気軽に歌唱を投稿して視聴者とのコミュニケーションを楽しむことから始まるため、キャラクターが重視され、歌の上手さは二の次といった面があること。活動者と視聴者の距離が近いために「身近なアイドル」になりやすく、他人の楽曲を借りた歌唱動画だけではほとんど収入にならないためにゲーム実況などのYouTuber活動を重視する歌い手も多いため、従来の音楽ファンは戸惑うこともあるかもしれません。
さらに、聞き慣れないうちはボーカロイドの人工的な音声が取っ付きにくいことも理由の一つでしょう。その場合は、歌い手によるカバーでボカロ曲の楽曲の良さを楽しむのが早道です。けれど、音楽編集ソフトによって人間の歌唱も加工修正が可能なので、「ライブで生の歌を聞いたら、思った以上に下手でがっかりした」と不名誉な評価を受ける歌い手も少なからずいます。このような点も、歌唱力を重視したいファンを引き付けるのが難しい要因かもしれません。