最新記事

アート

相次ぐ環境活動家による名画襲撃 温暖化啓蒙より美術品保険のインフレもたらす

2022年12月5日(月)11時40分
気候活動家に黒い液体を浴びせられたグスタフ・クリムトの作品

欧州では美術館が所蔵する名画を標的にした環境活動家による抗議行動が相次ぎ、保険会社は芸術作品襲撃の動きが他のグループにも広がり、美術品の保険料が上がるのではないかと危惧している。写真は15日、ウィーンのレオポルド美術館で、気候活動家に黒い液体を浴びせられたグスタフ・クリムトの作品。提供写真(2022年 ロイター)

欧州では美術館が所蔵する名画を標的にした環境活動家による抗議行動が相次ぎ、保険会社は芸術作品襲撃の動きが他のグループにも広がり、美術品の保険料が上がるのではないかと危惧している。

このところ環境活動家が、気候変動問題への関心を集めようと芸術作品を襲う事件が続発。10月にロンドンの美術館、ナショナル・ギャラリーで活動家がゴッホの絵画「ひまわり」にトマトスープを投げつけ、11月にはオーストリアのウィーンにあるレオポルド美術館で化石燃料の使用に反対する活動家がクリムトの絵画「死と生」に黒い液体をかけた。

襲われた絵画は、ガラスかスクリーンで保護されていた。ナショナル・ギャラリーの広報担当者は「ひまわり」の額縁がわずかに損傷を受けただけで済んだと説明。レオポルド美術館は「死と生」に被害はなかったとしているが、それ以上のコメント要請には応じなかった。

しかし、美術界と保険業界の関係者の多くは、美術作品に被害が出るのは時間の問題で、特に作品への襲撃が環境活動を超えて広がった場合、懸念が大きいと指摘している。

米ニューヨークのグッゲンハイム美術館や仏パリのルーブル美術館など100余りの美術館は今月、活動家は「かけがえのない作品の壊れやすさを極めて過小に評価している」とする声明を発表した。

保険会社・ヒスコックスの美術・プライベートクライアント部門責任者、ロバート・リード氏は「今のところ気候変動活動家が中心だが、こうした人々は中流階級のリベラル派で、作品を傷つける意図はあまりない」という。

ただ「心配しているのは、こうした動きが他の抗議団体に広がり、抑制がなく、作品への配慮のない態度を取るようになることだ」と述べた。

ブローカーのホーデンで美術品部門を率いるリフィッポ・ゲリーニ・マラルディ氏によると、作品そのものが直接被害を受けなくても、額縁の修理など後始末にかかる費用は数万ドルに達することがある。リスクプロファイルが変化したため、保険会社から来年の保険料引き上げの打診や、セキュリティーに関する問い合わせがあるかもしれず、美術品の所有者も神経質になりつつあるという。既に美術館に所蔵されるような作品の所有者から保管の依頼が何件か寄せられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

タイ首相、議会解散表明 45─60日以内に総選挙

ワールド

トランプ氏、州レベルのAI法抑制へ大統領令

ビジネス

午前の日経平均は反発、TOPIX高値更新 景気敏感

ワールド

原油先物上昇、米・ベネズエラの緊張受け 週間では下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 9
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 10
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中