アメリカで3つのプロリーグによる覇権争いが勃発、「ピックルボール」とは?
No Easy Pickle
ピックルボールはラケットスポーツのハイブリッド版(メジャーリーグ・ピックルボールの男子ダブルス戦) EMILEE CHINN/GETTY IMAGES
<草の根で人気が広がる、古くて新しいラケットスポーツ。1つのスポーツがメジャーになるカギは、多様性とボトムアップにある。その「ピックルボール・フィーバー」について>
新しいスポーツの大半は、いくつかの古いスポーツのハイブリッドだ。ピックルボールもテニスとバドミントンと卓球を掛け合わせて生まれた。
誕生は1965年。バドミントンのコートで、卓球のラケットを使い、穴の開いたプラスチックのボールを打ち合うところから始まった。
現在、競技人口は全米で480万人。3万8140面のコートがあり、用具メーカーは300社、数百の愛好クラブが活動している。
近年の爆発的な人気については考察が飛び交っているが、レブロン・ジェームズをはじめNBAやNFLのスターがプロチームのオーナーになるなど、メインストリームになりつつあるようだ。
とはいえ、若いスポーツに成長の苦しみは付き物。どれだけ派手に見出しを飾っても、新たなプレーヤーやファンを魅了し続けられるかどうかは、目に見えない社会の底流がカギを握る。
組織化されたスポーツが発展するためには、共通のルール、ランキング、用具の規格、定期的なイベント、選手とファンを団結させるアイデンティティーなどの体制が必要だ。今のところピックルボールの社会的基盤は薄く浅く広がっており、さまざまなリーグや運営団体など競合する利害関係者が入り乱れている。
アメリカでは3つのプロリーグが王国の支配権を争っている。国際的には国際ピックルボール連盟と世界ピックルボール連盟がある。さらに、コートの共用や公園の専用エリアの拡張などをめぐり、テニスとの「縄張り争い」や「綱引き」が報じられている。
内輪もめは、新興スポーツの発展過程ではよくあることだ。コーンホール(トウモロコシの粒を詰めた袋を投げて得点を競うゲーム)やディスクゴルフ、eスポーツも似たような問題を経験した。
従来のラケットスポーツに比べて、ピックルボールは安価で、高齢者も親しみやすい。他の新興スポーツに比べて未来は明るいようにも見える。もっとも今のところは、オリンピックの正式種目を目指す近代のムーブメントというより、領土争いに明け暮れた9世紀のフランスの封建制度を思わせる。
商業ではなく文化として
見知らぬ者同士がバーで出会い、2人ともピックルボールに関心があれば、すぐに意気投合するだろう。共通の情熱は、新興スポーツのコミュニティーの接着剤となり燃料となる。ただし、自分と同じような人と絆を深めたがる傾向は、スポーツの裾野を広げる障害になり得る。
社会学の研究が示すとおり、人は類似性を好むものであり、そのため男性中心の職業や白人の多いコミュニティーなど、グループやソーシャルネットワークは同質的になりがちだ。社会的なネットワークを通じて広がる草の根のスポーツの場合、似たような背景のプレーヤーが集まれば、成長の勢いがそがれかねない。
ピックルボールのアメリカでの競技者の男女比はバランスが取れており、ざっと男性が6割で女性が4割。新しいプロリーグ「メジャーリーグ・ピックルボール」の団体戦は女子ダブルス、男子ダブルス、2つの混合ダブルスの4試合が行われ、男性中心のプロスポーツ界では珍しい方式で競技を推進している。
ただし、草の根スポーツの長期的な成長は、中心的なプレーヤー層の多様性に左右される部分がある。ピックルボールは低年齢化が進んでいるかもしれないが、熱心なプレーヤーの半分は55歳以上で、65歳以上だけで3分の1を占める。全体に高齢者、白人、富裕層、郊外に住む人が多いとみられ、2つの大規模なサンプル調査では白人の割合が推定で90%を超えている。
ゴルフやNASCAR(全米ストックカー・レース協会)のように、同質性の問題を解決せずに競技人口を拡大してきたスポーツもある。しかし、人種や性別をめぐる社会の動向を考えると、多様性を追求することによって、メジャーを目指す新興スポーツの群れから抜け出せるかもしれない。
一方で、ニッチなスポーツであることは、観戦形態が細分化されている時代には有利かもしれない。小規模なスポーツにとって、普通の観客が緩やかでも着実に増えることは、持続的な成功の秘訣でもあるだろう。
YouTube、フェイスブックのライブ配信、スポーツ専門のストリーミングサービスのほか、通常のテレビやケーブルチャンネルでも一部放送されるなど、ピックルボールの試合を見る選択肢は数多くあるが、生中継の需要はまだ多くない。
結局、新しいスポーツがひしめくなかで勝ち抜くカギは、派手なメディア露出やトップダウンの商業的な力ではなく、ボトムアップの地域レベルの発展だ。あらゆるスポーツは、商業ではなく文化に根差している。
気軽なプレーヤーのネットワークを熱狂的ファンの国際的なコミュニティーに成長させられるのは、ボランティアや草の根のオーガナイザーだ。ピックルボールが名実共に素晴らしいスポーツに発展できるかどうかは、彼らに懸かっている。
Josh Woods, Professor of Sociology, West Virginia University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.