最新記事

世界に挑戦する日本人20

大江千里はなぜポップからジャズに転身したのか 47歳でNYに留学して取り戻した青春と、きらめく「人生の第2章」

2022年9月3日(土)15時25分
大江千里(ニューヨーク在住ジャズピアニスト)
大江千里

街に音楽があふれ、道行 く人は十人十色のニュー ヨークの自宅で作る「千里ジャズ」!  SENRI OE

<特別寄稿:47歳の時にシンガーソングライターからジャズピアニストに転身した大江自身がつづる、挑戦する人々への珠玉の応援歌【特集「世界に挑戦する日本人20】より>

2008年、47歳でニューヨークにジャズ留学し、人生の第2章が始まった。20220906issue_cover200.jpg

日本では23歳でシンガーソングライターとしてデビュー、アルバムをたくさんリリースし全国を何度もツアーした。なぜあえてゼロから、アメリカ留学とジャズという新境地にチャレンジしようと思ったのか。それには3つ理由がある。

1つ目はポップミュージックという恋愛をモチーフにした楽曲作りの旬から、若干遠ざかりつつあったこと。僕の中でドキドキワクワクの現役である10代から距離ができることで、年齢相応のリアリティーを出す加減が難しくなった。30代の10年は僕にとって、シンガーソングライターとして試行錯誤しながら「ポップを書き切る」時代となった。

2つ目。40歳で人生の岐路が来る。右足の付け根に小さな脂肪腫が見つかった。

ちょうどクリスマスコンサートのパンフレットの撮影で、フィンランドに向かう飛行機の中だった。一歩も歩けないほどの痛みに悶絶。現地に到着するなり救急病院で除去手術を行った。痛み止めを飲み一晩爆睡すると痛みは減り、撮影は順調に行われた。

だが日本に帰国後、それが見事に転移し、除去手術を何回か繰り返すことになる。除去するとまた転移するという塩梅(あんばい)で、そのうち除去をやめた。

父は長崎で被爆しており、僕は被爆二世。よく父が言う「人生には限りがある。やりたいことを今のうちにやれ」という言葉が脳裏をかすめる。でも良性なのだからジタバタしない。そう心に決めた。

その頃、母が亡くなり仲のいい友人が亡くなり、おまけにかわいがっていた犬2匹が亡くなった。父の言葉がグッと真実味を帯びる。人生は一回であり、やり直しがきかない。しかも賞味期限がある。

自分の人生はポップミュージックの世界で駆け抜けてきたが、もし明日死ぬとしたら何をする?――その頃、僕はそんなことを真剣に考え抜いた。そしてたどり着いた答えが、3つ目のジャズだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中