最新記事

映画

トム・ハンクスの新境地は、エルビス・プレスリーの胡散臭いマネージャー役

A Good Guy Steps Into the Shadows

2022年7月7日(木)15時46分
H・アラン・スコット(ライター、コメディアン)
エルビス

世界の目がプレスリー(オースティン・バトラー)に集まるなか、パーカー(ハンクス)はいつも目立たない場所にいた COURTESY OF WARNER BROS. PICTURES

<なぜ自身が得意としてきた、素朴でまっとうな善人のアメリカ人ではなく、プレスリーを搾取した抜け目ない、利己的な商売人役を引き受けたのか? ベテラン俳優が魅せられた、豪腕マネージャー「パーカー」のエネルギー>

トム・ハンクスといえば、多くの映画に出演し、アカデミー賞をはじめ多くの賞を獲得してきた大物俳優だ。その彼でさえ、エルビス・プレスリーのマネジャー役を打診されたときは驚いたらしい。

映画『エルヴィス』のバズ・ラーマン監督が初めて会いに来たとき、「一体どうして私のところに来たのか、さっぱり見当がつかなかった」と、ハンクスは振り返る。

ハンクスが得意としてきた役は、素朴でまっとうなアメリカ人だ。これに対してマネジャーのトム・パーカーはプレスリーを搾取した抜け目ない商売人といわれ、表舞台にほとんど姿を見せなかった。「容姿も声も知らなかった」と、ハンクスは言う。

それでも一応リサーチを始めてみると、パーカーという人物にどんどん興味が湧いてきた。「欲得と天才的なエネルギーが絶妙に絡み合った」人物だと、彼は語る。「パーカーはアートのことは分からなかった。音楽にも映画にも興味はなかった」

パーカーの関心は取引をまとめることにあった。重要なのはプレスリーに100万ドルの価値があることではなく、実際に彼に100万ドルをつかませることだった。

1909年にオランダで生まれたパーカーは、29年にアメリカにやって来た。そして南部でサーカスやカーニバルの興行を手掛けるうちに、カントリー音楽のスターたちの宣伝を手伝うようになった。

無名のプレスリーに出会ったのは55年のこと。すぐに正式なマネジメント契約を結び、プレスリーを大手レコード会社に移籍させると、移籍第1弾シングル「ハートブレイク・ホテル」が全米ナンバーワンの大ヒットとなる。こうしてプレスリーは一躍、大スターの仲間入りを果たした。

だが、音楽業界の関係者の間でも、パーカーが何者かはほとんど知られていなかった。分かっていたのは、ずんぐりした体形で、どこのなまりか分からない英語を話し、プレスリーのギャラの50%という法外なマネジメント料を取っていたことくらいだ(当時は10~15%が普通だった)。

それでもプレスリー自身は、パーカーの働きに満足していたらしい。ハンクスは、プレスリーの妻プリシラや、かつての取り巻きたちの話を聞いて驚いたという。

「パーカーがいかに悪どい男だったか聞かされると思っていた。ところがみんな、パーカーは最高に愉快な男だったと言う。『ユーモアがあって朗らかで、その場を明るくしてくれる。いつも私たちの面倒を見てくれた』ってね」

ハンクスはその見方に納得していない。「パーカーは利己的な興行屋であって、決して善人ではなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ブラジルのコーヒー農家、気候変動でロブス

ワールド

アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中