最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載

【核開発】

昭和は、世界的に見ても科学技術が急進した時代。宇宙、コンピューター、そして原子力や核兵器開発は、当時の世界情勢を語る上で、重要なファクターである。

科学技術は人間に豊かさと安心をもたらすが、人類の脅威にもなる恐ろしい両刃の剣でもある。

ウルトラマンシリーズで描かれるのは、人間の手に余る科学技術への警句だ。ひとたび想定を上回る力が生まれ、ひとり歩きを始めれば、人間はそれをさらに超越する力を生み出さなければならない。

「ウルトラセブン」の「第四惑星の悪夢」は、AIが発展した現代社会の行く末を暗示する話。「ウルトラマン」の「大爆発五秒前」では、ずさんに管理された兵器が人類を危険にさらすことに。

圧倒的な力をもつ脅威に対し、人間はそれを抑止する力で対抗するべきなのか。「ウルトラセブン」の「超兵器R1号」の劇中、モロボシ・ダンが兵器開発競争を、「血を吐きながら続けるマラソン」と表現。昭和の時代に発せられた問いは、実に奥が深い。

人類が生み出したロボットが支配する、謎の第四惑星者

■1968年 「第四惑星の悪夢」(ウルトラセブン)

pen20220518ultraman-11.jpg

ロボット長官は、コンピューターによる支配に反対する人間を、反乱分子とみなし処刑してしまう。

ウルトラ警備隊のダンとソガ隊員が宇宙ロケット・スコーピオン号のテストパイロットに選ばれ、30日間の睡眠テストの後、謎の「第四惑星」に到着する。ここは人間がつくり出した「長官」を筆頭とする、ロボットに支配された星だった。いつかコンピューターにとって代わられるぞ、という警鐘は、社会のオートメーション化がスタートしたばかりの昭和の時代にも発せられていた。近年のネット社会では、AIが選択した個人向けの広告が消費行動の指標になっている。現代人の生活も、ロボットに乗っ取られているのかもしれない...... !?

ロケットの墜落により怪獣が巨大化し、原爆をぶらさげて上陸

■1966年 「大爆発五秒前」(ウルトラマン)

pen20220518ultraman-12.jpg

放射能汚染で巨大化したラゴン。核兵器の管理体制に警鐘をならす作品でもあった。

宇宙開発用原子爆弾を搭載したロケットが太平洋に墜落する。ある日、神奈川県・葉山マリーナに原爆をぶら下げた海底原人ラゴンが上陸。実はウルトラマンには同様の怪獣がもう一匹いる。投棄された水爆を飲み込んだレッドキングが登場する話がある。なぜ何度も核をもった怪獣が現れるのか。かつて核兵器搭載の爆撃機が飛び回っていた昭和の時代、米軍は頻繁に核爆弾紛失事故を起こしていたのだ。有名なのは爆撃機が墜落しメガトン級熱核爆弾1発が水没した、66年の地中海の事件。「大爆発五秒前」からは、こうした実話の影響を感じられる。

※この記事はPen 2022年6月号『ウルトラマンを見よ』特集より再編集した記事です。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト

ビジネス

政府、25・26年度の成長率見通し上方修正 政策効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中