『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史
【核開発】
昭和は、世界的に見ても科学技術が急進した時代。宇宙、コンピューター、そして原子力や核兵器開発は、当時の世界情勢を語る上で、重要なファクターである。
科学技術は人間に豊かさと安心をもたらすが、人類の脅威にもなる恐ろしい両刃の剣でもある。
ウルトラマンシリーズで描かれるのは、人間の手に余る科学技術への警句だ。ひとたび想定を上回る力が生まれ、ひとり歩きを始めれば、人間はそれをさらに超越する力を生み出さなければならない。
「ウルトラセブン」の「第四惑星の悪夢」は、AIが発展した現代社会の行く末を暗示する話。「ウルトラマン」の「大爆発五秒前」では、ずさんに管理された兵器が人類を危険にさらすことに。
圧倒的な力をもつ脅威に対し、人間はそれを抑止する力で対抗するべきなのか。「ウルトラセブン」の「超兵器R1号」の劇中、モロボシ・ダンが兵器開発競争を、「血を吐きながら続けるマラソン」と表現。昭和の時代に発せられた問いは、実に奥が深い。
人類が生み出したロボットが支配する、謎の第四惑星者
■1968年 「第四惑星の悪夢」(ウルトラセブン)
ウルトラ警備隊のダンとソガ隊員が宇宙ロケット・スコーピオン号のテストパイロットに選ばれ、30日間の睡眠テストの後、謎の「第四惑星」に到着する。ここは人間がつくり出した「長官」を筆頭とする、ロボットに支配された星だった。いつかコンピューターにとって代わられるぞ、という警鐘は、社会のオートメーション化がスタートしたばかりの昭和の時代にも発せられていた。近年のネット社会では、AIが選択した個人向けの広告が消費行動の指標になっている。現代人の生活も、ロボットに乗っ取られているのかもしれない...... !?
ロケットの墜落により怪獣が巨大化し、原爆をぶらさげて上陸
■1966年 「大爆発五秒前」(ウルトラマン)
宇宙開発用原子爆弾を搭載したロケットが太平洋に墜落する。ある日、神奈川県・葉山マリーナに原爆をぶら下げた海底原人ラゴンが上陸。実はウルトラマンには同様の怪獣がもう一匹いる。投棄された水爆を飲み込んだレッドキングが登場する話がある。なぜ何度も核をもった怪獣が現れるのか。かつて核兵器搭載の爆撃機が飛び回っていた昭和の時代、米軍は頻繁に核爆弾紛失事故を起こしていたのだ。有名なのは爆撃機が墜落しメガトン級熱核爆弾1発が水没した、66年の地中海の事件。「大爆発五秒前」からは、こうした実話の影響を感じられる。
※この記事はPen 2022年6月号『ウルトラマンを見よ』特集より再編集した記事です。