最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載

【東西冷戦】

第二次世界大戦後の世界は、自由主義陣営の西側と、共産主義・社会主義陣営の東側に分かれた対立構造で動いていた。アメリカとソビエト(ロシア)は直接、戦火は交えなかったが、朝鮮戦争、ベトナム戦争、キューバ危機のような代理戦争が何度も起きたのだ。加えて互いに軍事的パワーバランスをとるための核兵器の配備数を拡大していった。

その余波は、アメリカの同盟国となった日本にも及んだ。朝鮮半島を舞台に東西陣営が対決した朝鮮戦争や済州島四・三事件で生まれた避難民は、1950年代にボートピープルになって日本に押し寄せ、60年代、ベトナム戦争で戦った米軍が、在日米軍基地から出撃したこともあって、日本での学生運動が高まりを見せた。

ウルトラマンシリーズでも、冷戦構造を背景にした数々のエピソードがあるが、いずれも明快な答えを提示したストーリーではない。あなたはどう思う? そんな視聴者への問いかけは、55年以上を経たいまも生きている。

修理のため立ち寄った避難民のエイリアンが、永遠のライバルに

■1966年 「侵略者を撃て」(ウルトラマン)

pen20220518ultraman-9.jpg

バルタン星人が地球にやってきたのは、たまたま宇宙船の修理に寄っただけだった。

東京にバルタン星人の円盤が飛来した。彼らの故郷バルタン星は、狂った科学者の核実験が原因で爆発してしまったのだ。宇宙旅行中のため生き残った20億3000万人のバルタン星人は、宇宙船で放浪中、立ち寄った地球で侵略作戦を開始する―。永遠のライバル・バルタン星人は、いわば宇宙のボートピープル。ウルトラマンとの移住交渉が決裂し、武力による制圧を選んだ。その名前の由来のひとつとして、20世紀初頭「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれたバルカン半島が挙げられる。バルカン諸国の大半は、冷戦中、共産主義政権によって統治されていた。

我こそ先住民と訴えるのは、人類に土地を奪われ海底に暮らす知的生命体

■1968年 「ノンマルトの使者」(ウルトラセブン)

pen20220518ultraman-10.jpg

地上破壊を続けるイギリスの原子力潜水艦の艦内は、人間の姿をした知的生命体に占拠されていた。

強奪された原子力潜水艦や怪獣が、船舶や海底施設を襲撃する。事件は地球の先住民族を名乗る地球原人ノンマルトの仕業だった。ウルトラマンセブンは、果たしてノンマルトと闘うべきなのか――。ウルトラ警備隊が敵潜水艦を追撃した先に、複数の建物らしきものを発見。それは人間の侵略によって地上から追いやられ、自分たちの手で築き上げた、平和に暮らすノンマルトの海底都市だった。地球防衛軍海洋潜航艇の大型ミサイルが打ち込まれ、ノンマルトは全滅した。いったいどちらが、地球の侵略者だったのだろうか?何とも感慨深い一作だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド

ビジネス

スターバックス中国事業に最大100億ドルの買収提案

ワールド

マスク氏のチャットボット、反ユダヤ主義的との苦情受

ワールド

ロイターネクスト:シンガポール、中国・米国・欧州と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中