最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載

【歴史的大イベント】

多くの社会問題をテーマにしながらも、昭和のウルトラマンシリーズは、経済成長がもたらす夢と希望を描いていた。

第二次世界大戦後、日本では多くの国際イベントが開催され、海外のイベントにも国を挙げて参加している。そのどれもが、国際社会への復帰を宣言する場だった。日本は世界に対し、民間で育まれた科学力や文化・スポーツで改めて存在感を強めていく。ウルトラマンシリーズでは、そうした高度経済成長期のイベントを背景にしたエピソードが少なくない。

昭和を代表する歴史的大イベントが、1964年の東京オリンピックと70年の大阪万博だ。どちらも世界中から数多くの観客を招き、経済成長を遂げた日本の姿を披露する、夢と希望がつまったイベントだった。興味深いのは、「ウルトラマン」がオリンピックと万博の間に放送を開始したこと。奇しくも映画『シン・ウルトラマン』が、再びオリンピックと万博の間に公開されるのは、不思議な巡り合わせでもある。

人間のエゴと欲から、万博に展示するために生きた怪獣を空輸

■1967年 「怪獣殿下」(ウルトラマン)

pen20220518ultraman-5.jpg

自衛隊や科学特捜隊の攻撃もむなしく、麻酔から目覚めたゴモラは大阪城を破壊していく。

南太平洋のジョンスン島で、約1億5000万年前に生息していたゴモラザウルスの生き残りを発見。学術調査隊の中谷教授はゴモラを生け捕りにして万国博に展示したいと考え、科学特捜隊に空輸を依頼する。実際の大阪万博開催はこの放送の3年も後だが、劇中では一切、説明がされていない。それだけ視聴者には知れわたっていた期待のイベントだったのだろう。ウルトラマンに倒されたゴモラの剥製が展示されるのは「古代館」というパビリオンの設定だったが、現実の大阪万博では、円谷英二は「三菱未来館」で上映される360度映像「サークロマ」の制作を担当。

禁断のカプセルから怪獣2体が出現し、国立競技場で対決

■1966年 「悪魔はふたたび」(ウルトラマン)

pen20220518ultraman-6.jpg

国立競技場にバニラとアボラスが出現し、怪獣同士の一大決戦が行われていた。

超古代文明ミュー帝国で恐れられていた2匹の怪獣が現代に蘇り、都内のスタジアムで激突する―。戦いの舞台となったのは、1964年に東京オリンピックのメインスタジアムとして使用された旧国立競技場だ。「ウルトラマン」の監督のひとり、実相寺昭雄は著書『ウルトラマンの東京』の中で、「東京オリンピックが街をぶち壊す要因をつくった」と嘆いているが、本作では怪獣がオリンピック会場をぶち壊している。そもそも「ウルトラQ」のタイトルは体操競技解説中の造語「ウルトラC」に由来。ウルトラマンはオリンピックと歴史をともにしているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中