年末定番の「くるみ割り人形」はなぜ最も愛されるバレエになったか
バランシンのライフワークの大半は、米国におけるバレエ人気を高めることに捧げられた。そして彼は、子どもがその願いを叶える鍵になると考えた。子どもがこの芸術に参加すれば、家族全体が巻き込まれる。幼い頃から鍛えれば、最終的には自分のバレエ団で採用できるようなダンサーが育つ。この目的のため、バランシンは1934年、ニューヨークにスクール・オブ・アメリカン・バレエを創設し、生徒たちを「くるみ割り人形」などの本公演に起用した。
スタッフォード氏は「くるみ割り人形」について「バレエへの入り口として最もふさわしい」と語る。「将来的に、さらなるサポートにつながっている。子どもの頃にこの作品を観た者は、大人になってから自分の子どもにバレエを習わせる。単に年に1回「くるみ割り人形」を観るだけでも、バレエに親しみを抱くようになる」
親から子へと受け継がれるバレエへの愛
バランシンは、教室の生徒であるダンサーが年々公演に参加できるように役柄を設定した。通常は8歳から始まり、12歳まで出演する。年齢が上がりテクニックが増していくにつれて、その研鑽のレベルに見合った役が用意されている。
「課題は難しくなるが、年齢に応じた適度な難しさだ。そこが重要なポイントになる」とアバーゲル氏は言う。「そうして『くるみ割り人形』を卒業する頃には、音楽の拍子をカウントし、列を乱さずに踊り、群舞のやり方を覚え、舞台上で大人のダンサーと共に難しいステップに挑む、そういうことができるようになっている」
「子どもは『くるみ割り人形』でいくつもの役柄を経験していく中で、最終的に必要なことをすべて身につけていく」
音楽に合わせてフォーメーションを保つことを20数人の8─9歳児に教えるのは、通常の年であれば、アバーゲル氏にとってもっとも困難な仕事の1つだ。だが今年最大の課題は「ロジスティクス」だったという。というのも、今年のNYCBの舞台には8─9歳児が1人も参加していないのだ。
「くるみ割り人形」のリハーサルは通常、晩夏か初秋に始まる。だが子ども向けにワクチンが提供されたのは、それよりもかなり後の11月初旬だった。NYCBやシカゴのジョフリー・バレエなどプロによる公演の中には、この状況に対応するために、ワクチン接種を受けた12歳以上の子どもだけをキャスティングする例もある。シアトルのパシフィック・ノースウエスト・バレエ団は、通常どおり9─12歳の年代を出演させるが、子どものダンサーには、それぞれ衣装とマッチするようなマスクを着用させている。
今年のNYCBの「子役」は、史上初めて12歳から16歳までとなった。衣装部では、例年より背の高いダンサーが着られるように衣装をすべて作り直した。ただし、来年は従来どおり幼いダンサーを起用できることを期待して、衣装デザインはサイズを簡単に縮められるようになっている。
Ally Levine(翻訳:エァクレーレン)