最新記事

ステージ

年末定番の「くるみ割り人形」はなぜ最も愛されるバレエになったか

2021年12月25日(土)16時00分

バランシンのライフワークの大半は、米国におけるバレエ人気を高めることに捧げられた。そして彼は、子どもがその願いを叶える鍵になると考えた。子どもがこの芸術に参加すれば、家族全体が巻き込まれる。幼い頃から鍛えれば、最終的には自分のバレエ団で採用できるようなダンサーが育つ。この目的のため、バランシンは1934年、ニューヨークにスクール・オブ・アメリカン・バレエを創設し、生徒たちを「くるみ割り人形」などの本公演に起用した。

スタッフォード氏は「くるみ割り人形」について「バレエへの入り口として最もふさわしい」と語る。「将来的に、さらなるサポートにつながっている。子どもの頃にこの作品を観た者は、大人になってから自分の子どもにバレエを習わせる。単に年に1回「くるみ割り人形」を観るだけでも、バレエに親しみを抱くようになる」

親から子へと受け継がれるバレエへの愛

バランシンは、教室の生徒であるダンサーが年々公演に参加できるように役柄を設定した。通常は8歳から始まり、12歳まで出演する。年齢が上がりテクニックが増していくにつれて、その研鑽のレベルに見合った役が用意されている。

「課題は難しくなるが、年齢に応じた適度な難しさだ。そこが重要なポイントになる」とアバーゲル氏は言う。「そうして『くるみ割り人形』を卒業する頃には、音楽の拍子をカウントし、列を乱さずに踊り、群舞のやり方を覚え、舞台上で大人のダンサーと共に難しいステップに挑む、そういうことができるようになっている」

「子どもは『くるみ割り人形』でいくつもの役柄を経験していく中で、最終的に必要なことをすべて身につけていく」

音楽に合わせてフォーメーションを保つことを20数人の8─9歳児に教えるのは、通常の年であれば、アバーゲル氏にとってもっとも困難な仕事の1つだ。だが今年最大の課題は「ロジスティクス」だったという。というのも、今年のNYCBの舞台には8─9歳児が1人も参加していないのだ。

「くるみ割り人形」のリハーサルは通常、晩夏か初秋に始まる。だが子ども向けにワクチンが提供されたのは、それよりもかなり後の11月初旬だった。NYCBやシカゴのジョフリー・バレエなどプロによる公演の中には、この状況に対応するために、ワクチン接種を受けた12歳以上の子どもだけをキャスティングする例もある。シアトルのパシフィック・ノースウエスト・バレエ団は、通常どおり9─12歳の年代を出演させるが、子どものダンサーには、それぞれ衣装とマッチするようなマスクを着用させている。

今年のNYCBの「子役」は、史上初めて12歳から16歳までとなった。衣装部では、例年より背の高いダンサーが着られるように衣装をすべて作り直した。ただし、来年は従来どおり幼いダンサーを起用できることを期待して、衣装デザインはサイズを簡単に縮められるようになっている。

Ally Levine(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、価格競争抑制へ自動車業界向けガイドライン

ワールド

米・イラン、核協議で柔軟姿勢 米は濃縮一部容認の用

ビジネス

日本車やドイツ車など、中国経由でロシアに流入 制裁

ワールド

世界で政治家への暴力や脅迫急増、新技術が助長=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中