本作のエンディングを見て私が思い出したのは、過去のボンド映画のクライマックスシーンではなく、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の勇壮な戦いの場面だ。トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)は命をなげうって宇宙を救う。

ダウニーの持つカリスマ性はシリーズ作品を支える大きな柱だから、トニーの死は単なるバトンの受け渡しとは訳が違う。キャプテン・アメリカ(クリス・エバンス)が、自分の力を必要としていない過去の地球で幸せに暮らすことを選ぶのと合わせ、一つの時代の終わりを示している。

「白人男性ヒーローの落日」と言ってもいいかもしれない。ハルクのようにかつて映画のタイトルを飾ったキャラも、シム・リウが主役を演じる『シャン・チー/テン・リングスの伝説』では脇役に回った。クリス・ヘムズワース演じるソーも、来年公開のシリーズ最新作でジェーン(ナタリー・ポートマン)に武器の鉄ついを継承させるらしい。

それでもジェームズ・ボンドは死なず

もちろん、白人男性ヒーローがみんな退場したわけではない。皆がよく知る過去のシリーズや作品、キャラクターが大きな力を持つエンターテインメントの世界では、引き算より足し算するほうがずっと容易だ。ドクター・ストレンジは次回作でスカーレット・ウィッチと戦うが、彼女にタイトルを奪われてはいない。とはいえ、マーベルが主人公の多様化を進めているのは間違いない。

本作では、主役であるボンドの存在理由が失われつつあるという印象が強かった。狙撃の名手よりハッカーが重宝されるこの世界では、優男の殺し屋など、いかれた悪役が恐ろしい計画を実現するのを止めるどころか、世界を戦争の瀬戸際に追い込むのが関の山なのだ。

クレイグの出演する過去のボンド映画がリアルだったとはとても言えない。それでも現実の世界は多かれ少なかれ作品の中に反映され、おかげでボンドの存在が浮いて見えるようになってしまった。

とはいえ、時代の文化を代表するキャラクターや作品は、カネになるが故に簡単には死なない。アマゾンは去りゆくボンドを見送るために85億ドルを投じて映画会社のMGMを買収したわけではない。今後もボンド映画は作り続けられるだろう。スピンオフやテレビ番組も含め、もっと広いボンドワールドが展開していく可能性もある。

時代の変化は受け入れても、ボンドのキャラクターの根っこは変わらないだろう。そんなことは不可能だから。クレイグのボンドは死んだけれど、ジェームズ・ボンドは不死身なのだ。

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NO TIME TO DIE

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

監督╱キャリー・ジョージ・フクナガ

主演╱ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ

日本公開中

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