最新記事

映画

時代に合わなくなったヒーロー「ジェームズ・ボンド」の最期が意味するもの

Passing the Torch

2021年10月29日(金)06時34分
サム・アダムズ

本作のエンディングを見て私が思い出したのは、過去のボンド映画のクライマックスシーンではなく、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の勇壮な戦いの場面だ。トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)は命をなげうって宇宙を救う。

ダウニーの持つカリスマ性はシリーズ作品を支える大きな柱だから、トニーの死は単なるバトンの受け渡しとは訳が違う。キャプテン・アメリカ(クリス・エバンス)が、自分の力を必要としていない過去の地球で幸せに暮らすことを選ぶのと合わせ、一つの時代の終わりを示している。

「白人男性ヒーローの落日」と言ってもいいかもしれない。ハルクのようにかつて映画のタイトルを飾ったキャラも、シム・リウが主役を演じる『シャン・チー/テン・リングスの伝説』では脇役に回った。クリス・ヘムズワース演じるソーも、来年公開のシリーズ最新作でジェーン(ナタリー・ポートマン)に武器の鉄ついを継承させるらしい。

それでもジェームズ・ボンドは死なず

もちろん、白人男性ヒーローがみんな退場したわけではない。皆がよく知る過去のシリーズや作品、キャラクターが大きな力を持つエンターテインメントの世界では、引き算より足し算するほうがずっと容易だ。ドクター・ストレンジは次回作でスカーレット・ウィッチと戦うが、彼女にタイトルを奪われてはいない。とはいえ、マーベルが主人公の多様化を進めているのは間違いない。

本作では、主役であるボンドの存在理由が失われつつあるという印象が強かった。狙撃の名手よりハッカーが重宝されるこの世界では、優男の殺し屋など、いかれた悪役が恐ろしい計画を実現するのを止めるどころか、世界を戦争の瀬戸際に追い込むのが関の山なのだ。

クレイグの出演する過去のボンド映画がリアルだったとはとても言えない。それでも現実の世界は多かれ少なかれ作品の中に反映され、おかげでボンドの存在が浮いて見えるようになってしまった。

とはいえ、時代の文化を代表するキャラクターや作品は、カネになるが故に簡単には死なない。アマゾンは去りゆくボンドを見送るために85億ドルを投じて映画会社のMGMを買収したわけではない。今後もボンド映画は作り続けられるだろう。スピンオフやテレビ番組も含め、もっと広いボンドワールドが展開していく可能性もある。

時代の変化は受け入れても、ボンドのキャラクターの根っこは変わらないだろう。そんなことは不可能だから。クレイグのボンドは死んだけれど、ジェームズ・ボンドは不死身なのだ。

©2021 The Slate Group

NO TIME TO DIE
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
監督╱キャリー・ジョージ・フクナガ
主演╱ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ
日本公開中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中

ビジネス

円高につながる金融政策、「一つの選択肢」=赤沢経産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 10
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中