最新記事

映画

日本植民地から戒厳令、民主化時代へ 台湾の人気映画が物語る台湾社会と台湾人の変遷

TAIWAN IN TAIWAN CINEMA

2021年10月7日(木)20時15分
赤松美和子(大妻女子大学比較文化学部准教授)

『海角七号』の成功と先住民

08年、台湾映画は自らの歴史をエンタメとして語ることで再び息を吹き返す。そのきっかけが、日本の台湾からの引き揚げを日台の悲恋の物語とした魏徳聖監督の『海角七号 君想う、国境の南』(08年)だ。

日本人男性教師から台湾人女学生への「君にはわかるはず。君を捨てたのではなく、泣く泣く手放したということを」という独り善がりな言い訳に満ちたラブレターを、教師の死後に娘が見つけ、日本統治期の住所に投函するが、宛て先不明となる。

そんな中、ミュージシャンの夢破れ田舎に帰省し郵便配達のバイトをする台湾人青年の阿嘉が、モデルを目指す日本人女性のサポートにより手紙を届ける。

『海角七号』は、台湾映画史上最高の興行収入5億3000万元を記録。主役の阿嘉を演じた俳優は先住民(原住民)で、劇中においても先住民が重要な役で登場する。この作品の大ヒットは、台湾映画における新たな先住民イメージをつくり上げた。16年、蔡英文総統は、政府を代表して先住民たちにこれまでの不平等な扱いを謝罪し、多元的な台湾社会の最初の住人として先住民を尊重する姿勢を示した。

魏徳聖が先住民セデック族による日本統治期最大の抗日暴動である霧社事件を活劇化した『セデック・バレ』(11年)は、2部作合わせて4時間半の長編でありながら、第1部の興行収入は歴代第2位となる。

さらに魏が総指揮、馬志翔が監督を務め、1931年に嘉義農林学校野球部が甲子園で準優勝した実話を青春ドラマ化した『KANO 1931海の向こうの甲子園』(14年)も多くの観客を集めた。昨今、日本統治期は台湾映画のエンタメ素材の1つとなっている。

台湾史研究者の洪郁如は『誰の日本時代 ジェンダー・階層・帝国の台湾史』(法政大学出版局)で、親日として単純化され誤解されがちな台湾人の日本統治についての語りについて、「『われわれの過去』を明快に語れない苦しみそのものが、数世代にわたり刻印された植民地主義の傷痕である」と述べている。

ラブストーリーから抗日、スポ根まで、日本統治期を語る揺れ幅こそが、自分の歴史を語れなかった悲しみと、今更それをどう語ればよいのかさえも分からない傷痕の深さを表わしているのかもしれない。ちなみに、現在の台湾史の教科書では、約4分の1が日本統治期に関する記述だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UAEフジャイラで石油積載一部停止、無人機攻撃受け

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ政権、イラン停戦交渉を

ワールド

アングル:トランプ氏が「迫害」主張の南ア、暮らしや
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 5
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中