セウォル号事件、フェミニズム...作品性と大衆性を兼備した韓国の社会派映画5選(権容奭)
<『コクソン/哭声』や『1987、ある闘いの真実』など、韓国では「ろうそく革命」の前後に熱い映画が数多く誕生した――と、一橋大学のクォン・ヨンソク准教授。そして「一本だけ推すならこの作品」という『地球を守れ』とは>
1.『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)
2.『荊棘(ばら)の秘密』(2016年)
3.『コクソン/哭声』(2016年)
4.『1987、ある闘いの真実』(2017年)
5.『地球を守れ』(2003年)
韓国映画には政治や権力を果敢に批判し、歴史・社会問題に触れる作品が多い。しかも作品性と大衆性を兼備する点が強みだ。
とりわけ、朴槿恵(パク・クネ)前大統領を弾劾に追い込んだ「ろうそく革命」の前後、2015~17年には社会派映画が数多く誕生した。
ここではセウォル号沈没事件(2014年)のトラウマ、権威主義的な公安政局下での閉塞感から「解放」へと導いた作品を中心に紹介したい。
まずは権力構造の闇に真正面から切り込んだ社会派サスペンスの傑作『インサイダーズ/内部者たち』(2015年)。映画は実際の事件をモチーフに、政治・検察・財閥・言論による「権力のカルテル」の存在とメカニズムをあぶり出した。
韓国を支配する者たちの非道と堕落を赤裸々に描き、なかでも言論権力に焦点を当てる。ペク・ユンシク演じる新聞の論説主幹の「大衆は犬豚どもです......直に静かになります」という言葉は「ろうそく集会」への導火線となった。
その渦中に青龍映画賞主演男優賞に輝いたイ・ビョンホンは「現実が映画を追い越した」と語った。わざと言葉を入れ替え、名ぜりふとして流行語にもなった「モヒートに行ってモルディブ一杯やろうか」は彼のアドリブだ。
本作には3つの「すごい」がある。
権力に批判的な文化人を排除するブラックリストを作成した朴政権下で、本作を誕生させた勇気がすごい。ハリウッドに進出し、名実共に韓国一の俳優となったイ・ビョンホンが問題作に出るのもすごい。そして、本作に作品賞を与える韓国という国は本当にすごいと思う。
大統領選の年に傑作が
次に、近年の韓国のトレンドであるフェミニズムを反映した『荊棘(ばら)の秘密』(2016年)。
選挙を前にした政治家の娘の失踪事件から物語は始まる。ありがちな政治サスペンスかと思いきや、韓国映画の特技であるジャンルの混用を巧みに操り、最後はフェミニズム映画として着地する。
主演は純愛・清純の代名詞的存在、『愛の不時着』のソン・イェジン。フェミとは程遠いイメージの彼女だが、本作で初の母親役に挑み、社会の不条理に立ち向かう独特な母性と女性像を提示した。今まで見たことのない彼女の複雑な「顔」に注目だ。
監督はパク・チャヌクの申し子と言われるイ・ギョンミ。商業性と芸術性の綱引き、テーマの巧みな擦り込み、クリシェを打ち砕く演出など今後が期待される監督だ。
交通事故で急死した故キム・ジュヒョクの名演も光る。ただ興行は23万人と惨敗で、なぜこれほどの作品が失敗したのか話題になった。