最新記事

韓国ドラマ

『愛の不時着』の魅力を元CIA工作員が読み解く...世界的な変化を見事に捉えた普遍的な物語

GLOBAL CRASH LANDING

2021年4月28日(水)19時18分
グレン・カール(元CIA工作員、本誌コラムニスト)
ドラマ『愛の不時着』のワンシーン

どんな試練に見舞われてもめげないジョンヒョク(写真)とセリの愛の行方を、世界中の視聴者がはらはらしながら見守った PHOTOFEST/AFLO

<『愛の不時着』の大ヒットが象徴するのは、グローバル化やネットの普及といった新時代と、太古から変わらない愛の尊さ>

波瀾万丈な『愛の不時着』にハラハラした後で、運命の恋に憧れない人はいないだろう。

北朝鮮のリ・ジョンヒョク大尉(ヒョンビン)は空から降ってきた美女ユン・セリ(ソン・イェジン)を抱き留め、恋に落ちる。セリは韓国の財閥令嬢で実業家。パラグライダーの事故で迷い込んだ北朝鮮で、冷え切った彼女の心はジョンヒョクとの純愛に解けていく。

試練の中でも、希望と忍耐が生きる意味と喜びをもたらすことを、ジョンヒョクとセリは身をもって示す。私たちは作り話と知りながらドラマを楽しみ、そこに真実を見いだす。すなわち──人生において、愛する人と共に笑い共に涙するほど大事なことがあるだろうか。

韓国発の『愛の不時着』からは、世界の変化も見えてくる。

この15年で世界はかつてなく統合されてヒエラルキーが希薄になり、希望と危険に満ちた場所になった。15年前の私に韓国のドラマを見る機会はなかっただろうし、そもそも韓流という言葉すら知らなかった。

古い常識を打ち壊すドラマ

今や世界の潮流を決めるのはアメリカでも中国でもバチカンでもメッカでもない。韓国のエンターテインメントがハリウッドやボリウッドと同等に、京都やコペンハーゲンに影響を及ぼす時代が来たのだ。

『愛の不時着』は個人や社会が相互につながり合う今の世界を象徴し、古い常識を打ち壊す。そして奇妙な話だが、ドナルド・トランプ米大統領(当時)に忠誠を誓い連邦議会議事堂を襲撃した暴徒や過激派テロリストのウサマ・ビンラディンも、セリやジョンヒョクと同じように人の心を一つにし、時に分断する。

『愛の不時着』が社会現象になったのは文化の壁を越え、万人の心に潜む切なる思いを描き切ったからだ。これは人類が有史以前からたき火を囲んで語り継いだ神話。ドラゴンが大地を跋ばっ扈こ していた太古から、親が子に語り聞かせてきたおとぎ話だ。

超自然な出来事は私たちを非日常へといざなう。ヒロインは竜巻に巻き込まれ、謎と危険の国へと連れ去られる。『愛の不時着』のセリしかり、『オズの魔法使』のドロシーしかり。ハンサムな若者は美しい娘と恋に落ち、身分の違いや家族のしがらみに仲を裂かれる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中