最新記事

医療

平凡な文学青年だったが、頑張れば、ちゃんと医者になれた──「ヒドイ巨塔」で

2020年11月18日(水)21時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ぼくが所属した小児外科というところは、(詳しい経緯を省くと)第二外科に源流がある。軍隊のような厳しい上下関係や徒弟制度が小児外科にはあった。第二外科が本来の個性を失う一方、いい意味でも悪い意味でも第二外科らしさを最も受け継いだのが小児外科だと学内では言われていた。

働き方改革とか、パワハラという言葉がなかった時代だから、その勤務のしかたはメチャクチャなものだった。「ヒドイ巨塔」である。だけど、手術の技術が上達していくとか、保護者から感謝されるとか、いいこともあった。やりがいもあった。「面白い巨塔」である。

ぼくは働きすぎて体を壊し、開業医になって今に至っている。大して繁盛もしていないし、閑古鳥が鳴いているわけでもない平凡なクリニックだ。開業医になって3つの大きな変化があった。まず、教授に怒られなくなった(たぶん、これで10年以上は寿命が延びた)。そして毎日、酒が飲めるようになった(緊急手術で夜間に呼び出されないため)。最後に、自分の時間を持つことができた。

人生の中で自分の時間を持つというのはすばらしいことである。ぼくはその時間を本を書くことに費やした。数えてみればこれまで10冊を超える本を書いていた。それならここらあたりで、自分の若かった頃を振り返ってもいいのではないかとぼくは考えた。医者ってどういうことを体験して一人前になっていくのか、自分の経験を整理して語ってみようと思い立ったのだ。そういうわけで本書はぼくの青春記である。

あ、それから医師を目指している小中学生の諸君! 今の医療制度では、医学部を卒業した研修医は大切なお客様としてものすご〜く大事に扱われるから心配しないように。勤務は9時→5時。お給料もガッチリ出る。

高校を卒業した時点で医学知識がゼロの若者が、人の体にメスを入れたり、命に関わるようになるまでの成長の物語に興味のある方に、ぜひとも読んでいただきたい。

抜粋第2回:医学部で人生初の解剖、人体が教科書通りでないことにほっとした気持ちになった


どんじり医
 松永正訓 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中